見えなくてもそこにある

君への あなたへの

愛着

学校でも会社でも、何となくやる気が出なくなる心地好い気候の頃。
昼間が長くなっていく時期で、授業終了後少し残るくらいでは暗くならなくなってきた。



図書室に寄って本を借り、玄関を出たは季節の移り変わりを感じた。

その時、テニスコートの方から部活動に精を出す生徒たちの声が聞こえてきた。
その声の中にある者を想像したは、校門へ向かおうとしていた足を90度回転させた。



しかしその途中、いかにも告白という雰囲気の二人を見掛けた。
だが、その告白される相手と思しき人物を認めた瞬間、の足は止まった。


「…くん、好きです。」


風に乗って聞こえてきた声はやはり告白だった。
告げられた相手は、照れた笑みすら浮かべず、むしろ不機嫌とも言えるような表情だ。


「…俺はあんたと付き合う気はない。」

「え、どうして? 彼女いないよね。」


女の子の質問に彼、海堂薫は答えるのも面倒といった印象で答える。


「いるんだよ。」

「誰?」


思いがけない海堂の返事に女の子は納得がいかないようだった。
そして、とうとうこんなことを言ったのだ。




「みんなに言ってないってことは、彼女のことそんなに好きじゃないんじゃない?」



その一言に海堂は我慢の限界がきた。
海堂は最後通告をしようとしたが、それはある者の突然の登場により阻まれた。



「薫ちゃんの気持ちがどうだろうと、私は大好きなの!
 そんな私に付き合ってくれるだけで十分なんだから。
 別にみんなに知らせるために付き合ってるわけじゃない!」


とうとうはその場に飛び出していた。
海堂も女の子も驚きの表情を見せる。

しかし、その次の表情は異なっていた。
海堂は少し穏やかな、女の子は対抗意識をむき出しにしたような。



行動を起こしたのは海堂が早かった。
スタスタとに近付いていく。

取り残された形の女の子はその場でに反論を始めた。


「な、海堂くんの気持ちが大切でしょ!
 相手の気持ちが思いやれなくて、よく彼女だなんて言えるよね。」


それに答えたのはではなく、海堂だった。




「うるせぇ。俺がそれで納得してるだからいいんだよ。」

「でも、海堂くん、そんな人といたら疲れるでしょ。別れちゃいなよ。」


海堂は女の子に無言の睨みを利かせ、気持ちを口にした。


といると和むんだ。あんたの意見なんて聞いてない。
 俺は、と離れる気はねぇ。」



海堂の一言に女の子は反論が浮かばなかったようだ。
は、海堂に手を引かれてその場を離れた。





「あんな薫ちゃん、初めて見た。」


が呟いた言葉に、返事らしきものはない。
代わりに、そっとの手が海堂の手に包まれた。


「もうすぐ練習が終わる。門のところで待っとけ。」


一言そう言うと、海堂はコートへと戻っていく。
その背中に向けて、は大きな声で返事をした。


「うん! 練習頑張ってね!」


振り向くことも手を振ることもしないが、確かに聞こえたと伝わってきた。


「私だって、薫ちゃんと離れる気はないんだから。」


呟いた言葉は、いつか彼に伝える言葉。
でも今はまだ、の胸の中に。





鮮やかな夕陽がその姿を消してゆく。
数十分後、学校の前の道に二人の影が並んでいた。

Fin.
2005.5.26

背景素材:

―――――あとがき―――――
薫ちゃんミニ夢でした。
生誕祝いのつもりで書き始めましたが、普通の夢にまでなりませんでした…。
インスピレーションを得て書き始めたはいいけど、最後を考えていなかったので進まず、
内容も希薄なものになってしまった所存です。
薫ちゃんの「離れる気はない」という一言が書きたかったのですよ!
それが、薫ちゃんの表に現れにくい「愛着」だとしたかったのです。
薫ちゃんの愛着、感じてみたいですねー(←末期症状)
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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