甘いチョコ  甘い気持ち

君は受け取ってくれるかな

甘いもの

「薫ちゃん。」

「…何だ?」

「はい、これあげる。」


が差し出したのは丁寧にラッピングされた箱。


「家に帰ってから食べてね。」

「食べ物なのか。」


そんな薫の返答はの想像通りだったらしく、小さく笑みを零す。


「ふふ。やっぱり気付いてなかったんだ。」

「何のことだ?」

「まあ、いいからいいから。心して食べてね。」

「あ、ああ。」


まだ不思議そうに箱を眺める海堂をそのままに、はその場を離れた。
海堂はこれから部活だ。




練習が始まるまでの部室はバレンタインの話で持ち切りだった。
好きな子からもらえて嬉しがる者、好きな子が他の男子に渡す場面を見てしまった者、
義理チョコばかりもらった者、様々である。


「ねーねー、おチビは何個もらったのー?」

「そーだよ、越前、教えろよー。」


菊丸と桃城がリョーマにのしかかる図。いつものことだ。


「重たいっすよ、2人とも。」


うっとうしそうに二人を払いのけようとする越前。
そこへ助けるためか、はたまた単に楽しんでいるだけか、不二が口を出す。


「そう言う英二は、いくつもらったんだい?」

「へっへー。去年より5個増えてた。」

「良かったね、英二。」

「うん!」


その5個の内の一つが乾特製野菜汁風味チョコだとも知らず、菊丸は喜んでいるのだった。
これはテニス部員全員への乾のプレゼントだ。
それをひょんなことから知っていた不二は、純粋に喜んでいる菊丸を温かな瞳で見ていた。


「あ、河村先輩はどうなんっすか?」

「え、オレ?」

「そーだよ。3年になってからはレギュラー勝ち取ったんだしさ。増えたんじゃないの〜?」

「いや〜、まあ…。」


照れた様子の河村に、2人はなおも言い寄る。
そんな中、密かに乾がデータを暴露する。


「河村の今年のチョコ数は昨年の倍だ。」

「ば、倍!?」

「た、タカさん、去年は何個だった?」

「いや〜、」


曖昧な返事でごまかした河村。
乾一人がにやりと笑っていた。


「あ、部長はどうだったんでしょうね。」

「う〜ん、多そうだけど、意外に少なかったりして。」

「ああ、人気はあっても近寄りがたくて渡せなかったりしそうだよね。」

「な! 不二もそう思うだろー。」

「いや〜、やっぱそれなりにもらってんじゃないすか? なあ、越前はどう思う?」

「そうっすね…、渡されても受け取らないタイプじゃないんっすか?」

「その通り。手塚は手渡しされたものは全て受け取らず、
 机などに置かれていたものは本人に返して回るというデータがある。」


当の手塚は、大石と共に竜崎顧問に呼び出されていた。

そんな部員たちの話を耳にし、海堂は今日という日が何の日か思い出した。
そういえば、朝からいくつも包みが置いてあったと思い返す。
流石に手渡ししてきたのはだけだったが。


「でよ、海堂。」

「何だ、桃城。」

「お前いくつもらった?」

「…知らねぇ。」

「何だよ、それ。机とかに置いてあっただろ。」

「興味ねぇ。」

「もー、海堂ってば。青春真っ盛りの中学生男子がバレンタインに興味ないなんて駄目じゃんかー。」

「菊丸先輩…。」

「そうだぜ、海堂。数えてみろよ。」


先ほどまで越前をつついていた2人の矛先が、海堂に向かってきた。
逃れようとする海堂に追い打ちをかけたのは、乾だった。


「海堂がバレンタインに興味のない理由は、目当ての相手から既に受け取っているからだ。」

「い、乾先輩!? 何言い出すんっすか!」

「ちなみにその相手とは、すでに付き合っているらしいな。」

「「「え〜!!」」」


部員たちの盛大な驚きの声を聞きながら、海堂は追及から逃れるため部室を出ていった。






その日の部活を何とか終え、足早に家へと帰る。
ロードワークをこなし、シャワーを浴びてやっと一息つく時間を持つ。

髪をふいていたタオルを首に掛け、ベッドに腰掛けながら鞄から一つの箱を取り出す。
他の受け取った物は別の袋にまとめて入れてあった。

特別な一つは、もちろんのもの。

箱を眺め、自分でも知らない内に嬉しさが表情に滲み出ていた。
幸い、それを指摘する者はこの部屋にいない。



箱の中身は小ぶりなチョコとクッキーだった。
メッセージカードが添えられている。


『St. Valentine's Day  甘いもの苦手だろうけど、我慢してね。
甘い言葉は分からないから、薫ちゃんへの甘い想いを甘いお菓子に代えて。
2月14日   


海堂は、くらりと軽い眩暈を感じた。

それは決して苦手な甘いものを贈られたからではなく。
実態のない甘いものに包まれてしまったから。


この甘さは嫌いじゃない、と海堂は心の中で呟いたのだった。

Fin.
2005.2.14

背景素材:10minutes+

―――――あとがき―――――
ハッピーバレンタイン♪ ということで、初薫ちゃんです。
ヒロインとの絡みが少なくてすみません…。彼、トレーニングばっかりしてそうで…。
私は、体力がないのでロードワークに付き合うとか、思いやりが足りないので差し入れするとか、
一緒に時間を過ごす方法を実行できませんでした。
不自然なことはしたくなかったのです。一緒に帰るとか、薫ちゃんはしなさそうじゃないですか。
それは優しくないからではなく、テニスに全力投球だから。そんな彼が好きなのです。
だから、彼の日常を変えずに夢を書きたかった。すると、こんな形に…。
部室でのレギュラーたちの話がメインのようになってしまいましたが、薫ちゃん夢です(無理矢理)
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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