雨の日

君は僕にチャンスをくれた

雨の日

朝の晴天はどこへやら。

お昼休みを迎えた青学には、雨が降っている。
音もなく、しとしとと…とはいかない。


「うわー、何でこんな大粒なんだろー?」

「ああ、台風が近付いてて、雨を降らす前線が刺激されてるんだってさ。」

「へぇ〜、不二ってば物知り〜。」

「そう? 天気予報で言ってたから。」

「あー、俺、今朝寝坊して急いでたからなぁ。」

「うん。ぎりぎりだったよね、英二。」


僕たちのこんな会話も、雨の音にいくらか遮られている。


「あ! 俺、傘持ってきてない!」

「僕、二つ持ってるから、貸そうか?」

「まじ!? サンキュー、不二。」

「その代わり、購買のお茶だから。」

「え…、今月ちょっとピンチ…、」


予想した以上に、英二が落ち込んでしまった。
からかいすぎたのかな。


「ふふ、冗談だよ。」

「は〜、助かった。」


僕の一言に、英二は安心したようだった。
今月のおこづかいがピンチというのは、本当みたいだ。




雨足は特に変わることもないまま、一日の授業が終わった。
昼休みの間に、今日の部活は筋トレもなしだという連絡があったから、
僕は英二に傘を貸すと、すぐ帰ろうとした。


「あ、この本、期限が今日までだ。」


だけど、机にしまったままの返却していない本に気付き、図書室へ向かう。



ガラッ


扉の向こうには、3〜4人の生徒とカウンターにいる委員2人しかいなかった。


「あれ、越前。」

「あ、不二先輩。」

「そっか、今日当番だったんだ。」

「そうっす。」


越前は、当番の女の子と並んで座っていた。
僕は何となくある気配を感じて、その女の子に声をかけてみた。


「あの、この本、延長したいんだけど、」

「あ、はい。」


彼女は、すぐに仕事に取り掛かってくれた。
すると、すかさず越前が僕に声をかける。


「不二先輩。何で、俺に言わないんっすか。」

「だって、越前よりこの子の方が詳しそうだったからね。」

「それは、そうっすけど…」

「それとも、この子に声はかけてほしくない、って所かな?」


クスッと微笑んで彼女を見れば、顔を赤くしていた。


「そうっすよ。」


越前は口の端を上げて、生意気そうな笑みを浮かべて言った。


「こいつは、俺の彼女っすから。」


そう言って女の子の肩を引き寄せると、困るのは彼女で、更に顔を赤くしている。


「ちょっ、リョーマくんっ。」


その言葉に越前は、あっさり手を離した。


「もう…。あ、不二先輩どうぞ。」

「ありがとう。じゃ、また明日、越前。」

「お疲れ様っす。」





図書室でこんなやり取りをしていたからか、靴箱には、ほとんど人はいなくなっていた。
雨は、相変わらずの強さで降っている。

そして、靴を履き替え、玄関を出ようとした時。



僕は、今日のこの雨に感謝した。



さん、久し振り。」

「あ、不二くん、久し振りー。」


1・2年と同じクラスだったけど、3年でクラスが離れてしまった僕の想い人。
廊下ですれ違うくらいしか、会うチャンスがないんだ。それも、たまに。


「帰るの遅いんだね、不二くん。」

「うん。ちょっと図書室に寄ってたから。」

「そうなんだ。」

さんは…傘がないってとこかな?」

「そうなの。いつもは天気予報見て出掛けるんだけど、今日に限って忘れちゃって。」


さんは、苦笑しながらそう言った。
確かに、同じクラスだった頃も、さんが傘がなくて困っている場面を見た記憶がない。


「良かったら、僕の傘に入りなよ。」

「え、あ、そんな、悪いし…、」

「でも、この雨止みそうにないよ?」

「…そうだけど、」


さんはドアの向こうの雨の様子を見て、少し憂鬱そうな表情をした。
僕は、彼女の気兼ねに気付いていないかのように、畳み掛ける。


「それに、僕なら全然気にしなくていいから。今日は用事もないし。」

「でも、不二くんの家、反対方向じゃない?」

「ふふ。覚えててくれたんだ?」

「うん、まあ。」

「いいから、帰ろう? はい。」


僕はさんに自分の鞄を渡し、庇の所で傘を広げて、彼女が来るのを待った。


「ちょっ、不二くん、鞄…、」


二人分の鞄を手にして庇まで来たさんは、傘を広げた僕を見て観念したらしい。

しょうがないな、という呆れと、降参しました、という諦めと、迷惑かけちゃったな、という遠慮。
そして、ありがとう、という感謝の入り交じった複雑な笑みで、小さく息を吐いた。




さんから鞄を受け取り、二人で一本の傘に入って歩き出す。
校門を出て、数分歩いた頃、さんが小さく言った。


「不二くん、ありがとう。」


俯き加減で言葉にするさんの表情は、僕からはあまり見えなかった。
けれど、笑顔であるだろうことは、声から判断出来る。

嬉しくなった僕は、彼女の家まで我慢できず、想いを口にしてしまった。



「僕さ、さんが好きなんだけど。」


「…え、」

「付き合って欲しいんだ。」

「あ、と……本気で?」

「うん。本気。」


僕は、笑顔で言い切った。


「………」


さんは、突然のことに、言いたいことが言葉にならないみたいだった。
やっと、彼女の口から発せられた言葉。



「うん。私も…、」



言葉にする一瞬だけ、僕の方を見てくれた。精一杯の行動なんだと思う。


「好き」の言葉はなくても、気持ちが伝わってきた。
彼女の声、瞳、頬、表情……彼女の全身から。



「ありがとう。これからもよろしく。」

「うん。」


僕もも笑顔だった。


「ふふ。僕は分かってたんだ。」

「何を?」

がOKしてくれること。」


強気にそう言えば、こんな答えが返ってきた。


「不二くんらしいね。」


その時のの笑顔は優しく温かで、僕の胸を貫き、好きだという気持ちを溢れさせた。
抱き締めたい衝動を抑え、笑顔を返す。



雨はまだ、強く降り続いていた。
僕は灰色の雨空を見上げ、この恵みの雨に改めて感謝した。

Fin.
2004.8.18

背景素材:NOION

―――――あとがき―――――
梅雨の時期に書き始め、7月中にはアップしようと思っていた作品です。
ですが、PC故障事件などがあり、新作を仕上げる余裕がありませんでした。
紛失した夢を取り戻すのに精一杯で…。
これは、観月さん夢(「私の薬」)に続き、ありきたりな話を書きたかったということです(笑)
不二さんと相合傘なんて、素敵じゃありませんか!?
本当は、その辺りの話(肩が触れるとか触れないとか)も書きたかったのですが、
本筋から逸れてしまう気がしまして。
前半で存分に逸れていますから、今更、という気もいたしますが(苦笑)
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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