散りゆく運命(さだめ)の花ならば、一思いに咲き誇ろうか

散りゆく運命(さだめ)の花なれば、再び会う日を我は夢見む

花 -はな-

「あーあ、散っちゃったね、金木犀。」

「そうだな。あの台風では仕方ないだろう。」

「うん。でも残念。」


椅子に座り、生徒会室の窓枠に項垂れるように顔を乗せて言うのは
委員会の日ではないので、まだそんなに遅い時間ではないが教室には二人だけ。

手塚は窓側から二列目の机で、ノートを広げていた。
それは、日誌。手塚は今日、日直なのだった。


手塚が窓際へ視線を向けると、少し肌寒い風を気持ち良さそうに浴びているがいた。
束ねていない髪が風になびく。
その横顔を、手塚は少しの間眺めていた。



綺麗だ、と思う。



この顔をこの位置で見られるようになってから、半年が過ぎようとしていた。
見飽きることは、まだない。




「すまないな。付き合わせて。」


ふと発せられた言葉に、は振り向いて答える。


「そんなことないよ。私が勝手にいるだけだし。」


その顔は笑っていた。

楽しそうな、嬉しそうな、そういった感情を表す笑みではない。
だが、見る者を、雰囲気を温かくする。

言葉で形容するならば、幸せな笑みだろうか。


「そうか。あと五分ほどで終わる。」

「うん。」


そうして作業に戻った手塚を、今度はが眺める。

態勢はそのままに、頬杖をついた顔を手塚の方へ向けている。
下を向いた顔を正面でなく、斜め40度から見た。
一列の差がこの角度を生み出す。


眼鏡から覗く鋭い瞳、こんな時でも消えない眉間の皺、すっと伸びた背筋。
の開けた窓から吹く風に、手塚の髪も揺れた。



綺麗だ、と思った。



そのポーカーフェイスに隠された心理を窺い知ることは難しい。
そしてその彼は、自分の気持ちを伝えることが意外に下手だったりする。
そんな人と付き合うなんて、大変だろうと思っていた。


思いながら早半年。
今もこうして付き合っている。


それは一重に努力故だろう。
相手を知ろうとし、思いやろうとし、そばにいようとする。物理的な問題でなく。





と手塚は、淡泊な恋人同士だった。
いつも一緒にいるわけではない。人前でいちゃつくことも、もちろんない。
だからと言って、冷めているわけではなかった。

お互いに会いたいと思ったり、そうして会えばキスもした。
時には喧嘩もする、小さなことで。そんなときには、子供っぽい手塚も垣間見れた。

そうして、傍目にも順調な恋人関係を続けてきたのだった。


「ねえ、手塚。」

「何だ?」


顔を上げずに答える手塚。


「花って、儚いよね。」

「…ああ。」

「………、」

「…、どうかしたのか?」


言葉を止めてしまったを不思議に思い、またも顔を上げずに声を掛ける。


「うん。短い間しか咲けないから、あんなに綺麗なのかなって、」


そこでやっと顔を上げた手塚は、窓の外を見ているを見た。
の言葉は続く。


「短いから、いつかは散ることを知ってるから、咲き誇るのかな、」


また、風がの髪をなびかせる。


「終わりがくることを知ってるのに、」


真剣な表情で語るから、手塚は目が放せない。


「私、その気持ち、分かるなぁ。…私も、咲き誇りたい。」


微かに笑みを浮かべながら、かみ締めるようには言う。



「散りゆく運命(さだめ)なら。」



言い終えたは、満足そうで幸せそうで、少しだけ寂しそうだ。
手塚は、口を突いて出た言葉を在りのまま伝えた。


「なら、」


手塚の声に、は振り向く。


「それなら、俺は…、」


は静かに聞いている。


「また会える日を、待つ。」


手塚の髪も再び揺れる。



「散りゆく運命(さだめ)だから、また咲き誇る日を。」



2人は、お互いの視線に包まれていた。希望に満ちた空気に。




手塚には、の言わんとしていることが伝わった。
にも、手塚の言わんとしていることが伝わった。


が、声もなく嬉しそうな笑みを浮かべる。
それにつられて、手塚も微かに微笑む。





散りゆく運命(さだめ)なら、咲き誇る。後悔しないように。
散るのが運命(さだめ)なら、咲くことも運命(さだめ)。必ず再び咲くことが約束されている。


だから、その日を待つ。その日を夢見る。



散りゆく運命(さだめ)だから、再び咲くのが運命(さだめ)だから。

Fin.
2004.11.3

背景素材:

―――――あとがき―――――
これは、台風23号(トカゲ)が上陸した後、
その鮮やかな橙色を落としてしまった金木犀を見たときに「書こう。」と決意したものです。
本当ならもう少し楽しめるはずだった金木犀が、花を落としてしまったのがとても残念で、思わず。
あまり、金木犀を見て花の儚さを感じる人はいないと思いますが。
タイトルは「花」ですが、書きたいことは「花」自体ではありません。
散りゆく運命だから、咲き誇っているのだ、と。終わりがあるから、精一杯生きているのだ、と。
終わることに絶望せず、力の限りを尽くして。後悔しないために。
それは、その姿は人と同じなのだ、ということを書きたかったのです。
さり気なく、自然に「花」から「人」のことへ話を移したかったのですが…、力不足で申し訳ない。
もっと、手塚との絡み(やらしいな…)も考えていたのですが、収拾がつかなくなるのでカットしました。
生物の「生」に対する一生懸命さ。儚いからこその強い想い。終わりは始まりの始まり。始まりは終わりの始まり。
この短さで伝えたいことの全てを書くことは出来ませんでしたが、これが今の精一杯です。
ヒロインは、今の、正に「花盛りの自分」が長く続かないことを分かっている。でも、だから精一杯咲き誇りたい、と。
そんなヒロインに手塚は、終わりがあるなら、再び咲き誇る時を待つ、と。終わりは始まりの始まりだから。
ちなみに、最初から二行目の文。古文の文法に則って訳してくださいませ。文法的には合ってるは、ず…(自信不足)
そして、オレンジレンジの「花」より、アジカンの「君という花」のイメージ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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