恋の始まり  ふとした瞬間

恋の続き  ふとした瞬間

一目惚れとは…

「図書委員、立候補誰かいませんか?」
「はい。」
「はい。じゃあ、次、美化委員……」

………

「では、図書委員はさんに決定します。」


これがすべての始まり。






今日は、図書委員会の初顔合わせだ。


、そろそろ行こっか。」
「うん。もう時間だよね。」


先日のHRで図書委員になった私は、
同じく図書委員になった小学校からの友人、と一緒に教室へ向かう。
図書委員会に割り当てられた教室に入ると、まだ半分ほどしか来ていなかった。
学年、クラス順に席に着いて、始まるのを待つ。


数分後、担当の先生が来て、委員会が始まった。


「私が担当の英です。初めだから、出欠とろうか。」


そうして、英先生は1学年12クラス、総勢36人の出欠を取り出した。


「1年1組、……さん。」
「はい。」

「2組、越前くん。」
「はい。」

「3組……」


私はこの時、初めて越前くんの顔をちゃんと見た。



越前くんの名前は前から知っていた。皆が「かっこいい」って騒いでたから。
1年は普通出られないという、テニス部のランキング戦に名前が載っているというのも、
騒がれる原因だと思う。
1年生でレギュラー入りしちゃうかもしれないから。
でも、知っているのは名前だけで、廊下で見かけることがあっても顔までは分からなかった。
クラスが離れているから、見かけること自体ほとんどない。


「7組、さん。」
「はい。」



そうして、全員の出欠を取り終わり、委員長や書記を決めた。
これらの役はやっぱり2・3年生で占められたけど、
クラス数が多いから、各学年2人ずつ連絡係を決めるらしい。


「2・3年は委員長とか役に就いてる人が兼任することになってるから。
じゃあ、1年決めようか。誰か、立候補してくれる人。」

「はい。」


真っ先に名乗りを挙げたのは、だった。


さんね。もう一人いない?」


私はびっくりしていた。
英先生は1年の担当じゃないのに、もう図書委員全員の顔と名前を覚えているみたいだった。
委員会も始まってから30分も経っていないのに。
だから、英先生には好感を持ったんだ。


「はい。」

さんもやってくれるのね。じゃあ、ちょっと説明があるから、この後5分くらい残ってね。」



そうして、初委員会は終わった。
カウンター当番は、次回決めるらしい。

解散の声を聞くと、越前くんは早々に部活へと向かったみたいだった。
私はその後ろ姿を眺めながら、「よっぽどテニスが好きなんだなー」と思っていた。
他には特に何も感じずに。





説明を聞き、と一緒に帰る。
テニスコートのそばを通りかかった時、が靴紐を結ぶために足を止めた。
ふと近くのコートに目をやった私は、そこにいる一人の人物を見つけた。


越前くんだった。


夕日を背にして立つ彼は、遠目にもかっこよかった。
特にかっこつけて立っているわけでもないのに。

思わず惹きつけられる。

まるで頭の上から足の先まで一本の棒があるように、すっと真っ直ぐに伸びた姿。
左手にはラケットを抱え、両手をポケットに入れている。
ただ、それだけなのに、どきどきした。


そして、知らず、見つめていた私は気付く。
越前くんの鋭い瞳が、強い意志を発していることに。

ひたすら上へ、前へ進んで行く、という意志。

彼の瞳はまた、遥か遠くを見据えていた。己が目指すべき場所が、見えているかのように。



目が、離せない。



、行くよ?」

「…あ、うん。」


の声で我に返った私は、再び、帰りの途についた。




校門を出てから数分。
歩きながら、が何か獲物を見つけたような表情で言う。


「ねぇ、。さっき越前くんを見てたでしょ。」

「え、あ、テニス部を見てたんだよ。」


私は、イエスともノーとも答えずに返した。


「ふ〜ん。そうなんだぁ?」


には、全部見透かされてるような気がしてくる。
私は、今の自分の気持ちを正直に話してみた。


「あー、いや、見てたっていうか、何か、目が離せなくて…、」

「……それって、一目惚れじゃない。」

「え!?」


私は考えてもみなかった言葉に、驚いてしまった。


だって、今日初めてちゃんと顔を見たんだよ!
しかも、一言も話したことないんだよ!
それを一目惚れって言うんでしょ。という一人漫才は置いといて。


その言葉を聞いた途端、今まで以上に越前くんの姿がはっきりと見えた。
きっと、自分の気持ちがはっきりと見えたから。



私は、越前くんが好きなんだ……。



!」

「え、はい。」

「ありがと!」


私は戸惑うの手を取り、笑顔で言った。


この日、私の恋が始まった。






初委員会から数日後、1年だけ集められてカウンター当番を決めた。
といっても、用紙に都合の悪い曜日を書くだけだったけど。


その数日後、当番表が配られた。
左端に日付と曜日が書いてあり、その横に名字が2つ書いてあった。
2人1組でするらしい。
でも、その組み合わせは決まっていないようだった。


「1、2…3回しかないんだ…。」


もっと出来ると思っていたから、ちょっと残念だった。
でも、気を取り直して、細かく確認していく。


「えーっと、一番始めは…やった! とだ。2回目はー…、うそ…越前くん、とだ……、」


この時の私は、傍目には嬉しさが顔に滲み出ていただろうけど、
頭の中は「どうしよう、どうしよう」の繰り返し。
それでも、にやけてくる顔を抑えるだけの力はない。

そこへ、がやって来た。


!」

。」

「チャンスじゃない。一緒に当番だなんて。」

「う、うん。そうなんだけど、嬉しいんだけど……どうしようっ」

「大丈夫。越前くんとの前に私とだから。何か考えよ。」

「うん。ありがとう。」


そうして、と相談した結果、「名前を覚えてもらうこと」が第一目標となった。
大きな学校だから、同じ学年でもなかなか名前が覚えられないという理由で。


「いい? 少しでも話すのよ。」

「う、うん。」


は人差し指を立てて、言い聞かす様に言った。





そして、越前くんとの当番当日。

お弁当を食べ、図書室へと向かう。
そこにはまだ、越前くんの姿はなかった。


「あ、さんね。相手の子はまだみたいだけど、今日は前と同じでいいから。」

「はい。分かりました。」


そうして、司書の先生は司書室に戻っていった。

カウンター内の椅子に座っていると、ドアが開いた。
そっちに目を向けると、越前くんがいた。
彼はゆっくり歩いてきて、私の隣にある椅子に腰を降ろす。


「越前くん。今日はこの前と同じでいいって。」

「…あんた、誰?」

「あ、今日当番のです。よろしくね。」

「ふ〜ん、よろしく。」


挨拶はできたけど、昼休みは忙しくてそれ以上話はできなかった。




放課後。

終礼後、どこにも寄らずに図書室へ向かう。

ドアを開けたそこには、2〜3人の生徒とカウンターに1人の生徒がいた。
その人物に少し驚き、隣りに座りながら思わず声を掛けていた。


「越前くん、早いね。」

「まあね。さんこそ早いじゃん。」


名前を覚えてもらえたことが嬉しかった。
それだけで心拍数が上がり、越前くんから目を逸らしてしまう。
すると、越前くんが私にプリントを差し出した。


「これ、さっき司書の先生がさんに渡して、ってさ。」

「あ、ありがとう。」


越前くんからプリントを受け取り、目を通す。
それは、蔵書点検についてのプリントだった。
一斉にするのではなく、数回に分けて実施するみたいだ。


「越前くん。」

「何?」

「うん。来週、蔵書点検するらしくて、越前くんは…水曜日だから。」

「分かった。」


よかった。胸の鼓動も少し収まって、普通に話せた。
すると、今度は越前くんから声を掛けられた。


「あのさ、さんって何で図書委員になったの?」

「んー、私、図書室が好きなんだよね。この独特の雰囲気が。和むし、気持ちが落ち着くし。」

「そうなんだ。じゃあさ、彼氏はいる?」

「んー、…え! い、いないよ。」


こんなことを聞かれるなんて考えてもいなかったから、すごく驚いた。
越前くんは、良くも悪くも私をどきどきさせ過ぎ!
そんなことを思ったら、すぐに次の質問をされる。


「ふ〜ん。じゃあ、好きな人は?」

「う…い、るけど…、」


何とか正直に答えたものの、顔が赤くなってしまう。
咄嗟に俯いたけど、気付かれちゃったかもしれない。
というか、何でこんなことを聞かれるのかが分からない。一体、私にどうしろって言うの。


「誰か、当ててみようか。」


意地悪そうな表情で、軽く笑みを浮かべながら言う越前くん。

その顔を見ると、動揺よりも、なぜだか腹が立ってきた。
そして、少し怒りを表情に滲ませながら、こんなことを言い放ってしまった。


「当ててみれば。」


強気なことを口走ったけれど、心の中では白旗を上げる寸前。
怒りの表情というよりも、ふてくされた表情と言う方が合っているかもしれない。
「負けたくない」という感情が勝っていた。


越前くんは私の答えが少し意外だったみたいだけど、すぐに満足したような笑みを浮かべた。


「じゃあ…、俺の知ってる人でしょ。」

「…さあ? そんなことより、仕事しなくちゃ。」

「誰もいないんだけど。」

「え、」


室内を見渡してみれば、いつの間にか数人いた生徒はいなくなっている。
そんなに話し込んでたっけ…。
でも、今はそんなことを考えている余裕はない。

私はこの期に及んで、追及から逃れる術を探していた。


「あ、私、本探してくるね。」


口にすると同時に席を立つという私の行動は、一本の腕によって遮られてしまった。
とにかく、この場から離れようとした私の考えは、見破られていたみたい。
腕を掴まれ、思わず越前くんの顔を見ると、既に勝ち誇ったような表情をしていた。



さんの好きな人って、俺でしょ。」



もう、白旗を上げるしかなかった。


「うん…」


私の答えを聞くと、越前くんは手を放した。
そして、鞄を手に取り席を立つ。
私は、俯いたまま顔を上げられない。



「じゃあ、そういうことだから。」

「え?」

「もう終わる時間でしょ。」


指し示された時計の時刻を見ると、確かに当番の時間は過ぎようとしていた。


「そうだけど、そうじゃなくて、さっきの…」

「だから、こういうこと。」


私は、気になった一言の意味を尋ねようとした。

すると、越前くんは私の前髪をそっと左手で上げ、その額に軽くキスをした。
ゆっくりとした動作で。
こんな言葉と共に。



「Me too.」



私の顔は真っ赤になってしまって、胸の鼓動は速度を上げる。
越前くんの手が離れ、私は呆然としながら思わず額に手を当てていた。
そんな私を見て、嬉しそうな笑顔になった越前くんはドアへと足早に向かう。


(今日も部活なんだろうな)


そんなことをぼんやりと考えながら、その姿を見ていた。
彼に一目惚れした、あの日と重なる姿を。



不意に振り返る越前くん。


。明日、一緒に帰ろ。」

「あ、うん。」


この一言が、あの日とは違うことを示してくれる。
さっきと同じ、嬉しそうな笑みを浮かべ、ドアの向こうへ越前くんの姿は消えていった。

明日、あの日彼に一目惚れしたことを伝えてみようかな、と思った。

Fin.
2004.8.31(再)

背景素材:NOION

―――――あとがき―――――
PC故障事件被害作品です(どんな名称やねん)
記念すべき初リョマだったのに! 何ヶ月もかかって書き上げた作品だったのに!
そうなのですよ。リョマは何故か進まず、何ヶ月もかかりました。少なくとも、3ヶ月は…(え)
今回の復旧スピードは、そこから考えれば素晴らしいです。あ、それでも約2ヶ月(苦笑)
何はともあれ、完成できたことを喜びたいです。
消失前の作品では、リョマの英語による告白はもっと長かったです。
けれど、そうすると何となく話の進みが良くなかったのでカットしました。
同じようには書けませんねぇ。
骨格だけは当初のままを維持したつもりですが、抜けている描写は多々あります。
書けなくて残念です…。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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