祝おう 心の底から

祝おう ひとりにひとつずつの大切な日を

ふたつ

それはクリスマスを8日後に控えた帰り道。
珍しく家路を共にしているとリョーマは冷たい外気に吐く息を白くしていた。


「はー、寒いねぇ。」

「まあね。」


はぁ〜、と両手に息を吹き掛けるに、リョーマは意味有り気に口を歪ませて言った。


「そんなに寒いなら、俺が温めてあげようか?」


リョーマのこういう面にもそろそろ慣れてきたつもりだったが、顔が赤くなるのは抑えられなかった。
それを隠すかのようには言葉を返す。


「そんなことより、24日は空けといてね。」


いとも簡単に流された形のリョーマだったが、それ程気にしてはいないようだった。
照れ隠し故の物言いだと知っていたからだろう。


「分かってる。」

「じゃあ、3時に青春台の駅で。」

「うん。」





月日は瞬く間に過ぎ、当日。

3時少し前に待ち合わせ場所に着いたは、今日もまた白い息を吐いていた。
クリスマス特有の待ち合わせをするには少々早いようで、案外人の影はまばらだ。
時計に目を向けると、いつの間にか約束の時間を過ぎていた。

しかし、こんなことには慣れてしまった。
付き合い始めた当初は、事故にでもあったのではないかと心配して慌てたものだが、
リョーマの人となりを知れば、少々の遅刻では動じなくなる。それがいいか悪いかは別にして。


。」


少し駆け足で近付いてくるリョーマ。
彼もまた白い息を吐いていた。


「ごめん。遅れた。」

「いいよ。いつもより早かったし。」


謝罪の言葉を口にするリョーマに、は笑顔を向けていた。

本当に、いつもより遅刻時間が短かったためだ。
時間通りでなくとも、そこにリョーマの気持ちを感じたから。
それだけで良かった。


「じゃあ、行こっか。」

「あ、うん。」


木々に取り付けられた装飾はまだ灯っていなかったが、そこかしこにクリスマスの雰囲気が漂っている。
商店街を歩けばジングルベルやあわてんぼうのサンタクロースの曲。
クリスマスケーキの店頭販売もある。もちろん売り子はサンタの格好をして。

クリスマス特有の明るい色使いが楽しい気分にさせる。
行き交う人々もどこか浮かれているようだ。



二人は特に目的もなく歩いた。
唯一の目的は点灯されたツリーを見ることであったから。
その時、二人で取り決めた金額分のプレゼントを交換することになっていた。

何と言ったって二人は中学一年生だ。そんなにおこづかいは多くない。
かと言ってバイトも出来ない。お互いの懐具合を考慮した結果、500円となっていた。
本当はもう少し奮発するつもりだったが、はクリスマス用と誕生日用も用意するつもりだったため、
少し金額を下げてもらったのだった。
もちろん、誕生日については触れず、おこづかいが少ないという理由にして。


そんなこんなで二人で歩いているだけだったが、時間が過ぎるのは早いもので。


、そろそろツリーのとこ行く?」

「うん。点灯まであと20分だもんね。」


目的のツリーに近付くにつれ、人の波が大きくなっていく。
皆が皆着脹れているため、実際の人数よりも多く感じる。


「うっわー、すごい人。」

「うん。こっからで見える?」

「大丈夫。ツリー背高いし。」


他愛もない会話を続けていると、カウントダウンが始まった。
リョーマとしては、たかが点灯するためにカウントダウンをするのが不思議だったが、
が楽しそうなので気にしないことにした。


「…4、3、2、1」


スイッチを入れられた途端、周囲はわぁっという歓声に包まれた。

木に巻き付けられた電球が、暗闇では消えてしまう木の姿を浮かび上がらせている。
光の力を見せつけられたようだとは思った。


「光って、すごいね…」


ツリーを見上げながら呟くと答えが返ってくる。


「そうだね。けっこうすごいかも。」


隣りを見るとリョーマも同じようにツリーを見上げていた。
光を見つめるリョーマの瞳はいつもよりも輝いている。



キラキラキラ



は、リョーマの遠くを確と見据えている瞳が好きだったが、同時に不安でもあった。
ここにいる自分は彼の瞳に映っているのだろうかと。

リョーマはと視線を合わせて、笑顔を見せた。


「はい。Merry Christmas.」

「あ、ありがとう。…はい。メリークリスマス。」


見事な発音を披露したリョーマに少し見惚れてしまったは、慌てて包みを受け取り、
自分のプレゼントを渡した。


「どーも。…中身、何?」


厳重に包装されている様を認めたリョーマは、その場で開封することは諦めたようだ。
それは、の思惑通りだった。


「ふふ、秘密。」


は少し笑って答えた。
すると、不敵に微笑んだリョーマが口を開く。


「ふ〜ん。はそういうこと言うんだ? 俺に秘密とか言っちゃう口はこれだっけ?」

「あ、でも、隠し事ってわけじゃな…」


一瞬体温を分け合った唇はすぐに離れていく。


も、それ、家帰ってから開けてよね。」

「ん、分かった。」


二人は笑い、自然と歩きだす。






商店街は昼間よりも活気を増していた。
人の波がとぎれることはなく、夏祭りのような賑わいである。


、はぐれるから手…って、?」


リョーマが声を掛けながら振り向くと、先程までついてきていたはずのの姿が見当たらない。
リョーマは慌てて周囲を見回すが、人は否が応でも目に入るのに目当ての人物は見つからない。
人の波をかいくぐりながら端に寄り、携帯を操作する。
鳴り響くコール音を聞き続けるが、応答はない。

気付けば、リョーマは走り出していた。
当てはなかったが、とにかく動かずにはいられなかった。
携帯を耳に当てたまま十数分走り続けた。



息を乱し汗を滲ませたリョーマは、手近な壁に左手を打ち付けた。


「ったく、何だってこんな日に…」


呟いた言葉の続きは飲み込まれた。
こんなことを言っていても仕方がない。

しかし、落ち着かなくてはと思いながらも、焦る心を止められない。
携帯も電源が入っていないようで繋がらないのだから。


「やぁ、越前。…どうした? そんなに汗かいて。」

「お? おっチビー! まさかこんなとこで会うなんて思ってなかったなー。」

「…大石先輩、菊丸先輩。」


思いがけず出会った3人は互いに驚いていた。
しかし、越前の普段と異なる様子に2人は首を傾げる。


「何かあったのか?」

「まあ…」

「おチビ一人?…じゃ来ないよな。」

「当たり前っすよ。」

「ああ、さんか。でも、さんの姿が見えないけど、」


この大石の問いにリョーマが答えるより先に、菊丸が口を開いた。


「あ、もしかしてはぐれちゃった?」

「……そうっす。」


言い当てられたことに少し憮然としながらも、正直に答えるリョーマ。


「そうなのか!? 大変じゃないか!」


ピロピロリ〜


神妙な雰囲気の場に、軽快なおめっとサンバが流れる。

言葉をなくす3人。

一瞬間を置いて菊丸が言葉を発した。


「…あ、はは! 俺の携帯だにゃ。だ、誰からのメールだろ〜。」


場の気まずい雰囲気を和ませようと、努めて明るく話す。
だが、携帯を開きメールを読んだ菊丸は、笑顔のまま顔色が悪くなっていった。


「…英二?」

「どうかしたんっすか?」


問い掛ける二人に、菊丸は静かにメールを見せた。
「ふ、不二が…」と呟きながら。
そこに記されていたのは…


『さっきさんに会って、今2人でお茶してるんだ。』


不二がと会ったのも、お茶をすることになったのも全くの偶然だったが、
リョーマには計画されていたことのように感じられて仕方ない。
思わず顔を顰めてしまった。


「菊丸先輩。」


リョーマのいつになく低い声が響く。


「な、何?」

「不二先輩にどこにいるのか聞いてくれませんか。」

「オ、オッケー。」


問い掛けの形ではあったが、有無を言わせない口調である。
素早くメールを送信し、返事を待つ。
意外にも返事はすぐに返ってきた。


『今英二たちがいるところと向かいの店。越前、機嫌悪そうだね(笑)』


最後の一文は、本当に彼独特の柔らかな笑い声が聞こえてきそうであった。
この状況をきっと楽しんでいるに違いない。

メールを読んだ3人は、人の波の向こうに垣間見える喫茶店に目を向けた。
しかし、中までは見えない。
何故不二には彼らが見えたのか不思議になるが、それは気にしない方が良い。




3人は何とか、その店へ入る。


「おーい、不二〜。」

「あ、英二。」


不二の声でこちらに背を向けていたが、口を開きながら振り返った。


「英二先輩がいらしたんで、あ! リョーマくん!」


来たのは菊丸だけだと思っていたは、そこにリョーマの姿を見つけて驚いた表情を見せる。
だが、すぐに嬉しそうな顔になる。
さらに今度は、今にも泣き出しそうな表情になった。

は、後から来た3人が戸惑う間もなく駆け出す。
リョーマのもとへ。

咄嗟のことにリョーマは手をポケットに入れたままだったが、は構わずに彼の腕を掴んだ。
俯きながらも、次々に言葉を繋げてゆく。


「あ、あのね、気付いたらリョーマくんの姿が見えなくて、携帯で連絡取ろうと思ったんだけど、
 肝心なときに充電切れちゃって、しばらく探してみたんだけど見つからなくて…。
 仕方なく閉まってるお店の軒先に立ってたら不二先輩に会ったの。事情を話したら連絡取ってくれるって。
 外で待つのは寒いから、喫茶店に入って待ってたんだけど…」


そこまで一気に話したは、顔を上げてリョーマを見る。
まだ泣き出しそうだったが、それは安心したが故なのだと伝わってくる表情だった。
いくら知っている先輩でも、心細かったのだ。



リョーマだから、リョーマに会えたから。

この安心感、胸を締め付けられる想いは、今ようやく湧いてきた。



は抱き付きたい衝動に駆られたが、人目を気にし、行動には移せない。
代わりにリョーマの腕を掴んだ手に力を込めた。
その小さなサインをリョーマは見逃さなかった。

ポケットから手を出しながら、に声を掛ける。


。」

「ん?」

「出よっか。」

「あ、うん。」


は鞄を取りに戻って不二たちに礼を述べ、リョーマも挨拶をして店を後にした。





近くの公園を歩きながら、リョーマはに声を掛ける。


。飴ちょうだい。喉痛い。」

「いいよ。…はい。」


リョーマは飴を受け取ると、そのままの腕を掴んで体を引き寄せた。
確かな力での背中に腕を回して、抱き締める。



「……無事で良かった…、」



頭のすぐ上で呟かれた言葉に、は涙が込み上げてくるのを感じた。

咄嗟に言葉が出てこないは、リョーマを抱き締め返すことで気持ちを伝える。

ありがとうと、心配したと、嬉しいと、愛しいと、好きという様々な想いを。



お互いの温もり、香り、存在を確かめ合いながらしばらく時が経つ。
そっと、少し体を離し、はもう一つのプレゼントを渡した。



「リョーマくん。お誕生日おめでとう。」



笑顔で、しかし少し照れながら、プレゼントを差し出す

想像もしていなかったようで、リョーマは驚きの表情を見せた。
だが、すぐに照れたような表情になった。


「サンキュ。……俺、クリスマスに2つもプレゼントもらったの初めてかも。」

「え、そうなの?」

「うん。やっぱ重なってると一緒にされちゃうし。まあ、別にそれで良かったんだけど。」

「あー、私も同じ立場だったら、別にいーやって思うかもしれないなぁ。」

「でしょ? …でも、やっぱこっちの方が嬉しいや。」

「こっちって?」

「誕生日も祝ってもらえて、クリスマスプレゼントももらえる方。」


そう言ってリョーマは、の額に小さく音を立ててキスをした。


、ありがと。」


滅多に見せない嬉しそうな笑顔を見ると、も嬉しさが込み上げてくる。
だが反対に、自分がリョーマにこの表情をさせているのだと思うと、何やら照れてしまう。

は頬を赤らめた。
そして、再びリョーマに抱き付き呟く。



「ここにいてくれて……ありがとう。」

。」



リョーマはかみ締めるように、ゆっくりと名を呼ぶ。
の頭を片手で抱え込み、もう片方の手は背に回り力を込められた。
「決して離さない」と主張するかのように。
鼻先をくすぐるの香りに眩暈を起こしそうだったが、冷たい空気が理性を保たせる。



「もう少し…」



知らず内に出てしまった言葉。
の問い掛ける声が届く。


「え、何?」

「ううん。もう少し、このままでいていい?」

「うん…」



リョーマはごまかした。
あの後に続く本当の言葉は…



「もう少し…、待っててあげるから。」



この言葉が告げられるのはまだ先の話。
今はただ、触れ合えるだけで十分だから。





ありがとう、生まれてきてくれて
ありがとう、ここにいてくれて


君を祝い、君に感謝する日


誕生日――ひとりにひとつずつの大切な日

Fin.
2004.12.24

背景素材:

―――――あとがき―――――
リョマ生誕兼クリスマス夢。基本は生誕夢で。
途中、あまり意味のないアクシデントがあったために少々長くなってしまいました(苦笑)
あー、もう、削れないなんて物書きとしては駄目ですねー。
でも、彼女を探して必死に走り回るリョマが書きたかったんです!
汗を滲ませ、息を乱し、周囲の物に少し八つ当たりしながらも、その表情は真剣そのもの。
く〜っ、素敵〜vv このくらい想われてみたいですねー。
ちなみに、このネタをリョマにしたのは、彼が一番似合いそうだったからです。
一見クールな人が熱くなるのって、意外なところが素敵じゃないですか。
その意外性が一番合う気がしたのですよ。リョマを考えていて思いついたネタですしね。
にしても、英二の着メロ「ピロピロリ〜」って…。あ、おめっとサンバはちゃんとCD持ってますから!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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