恋心  それは誰にも止められない

恋心  時に人はそれと戦う

君への恋心

「周助ー。」


笑顔を浮かべて走り寄ってくるのは、 
いつもいつも可愛らしい姿で僕の近くにいてくれる、大切な彼女だ。


、どうかした?」

「うん。これ、乾君に頼まれたの。周助に渡して、だって。はい。」


差し出されたのは、部活関係のプリント。
これを乾が僕に渡すのはおかしくはない。けれど、そのルートがどうも腑に落ちなかった。


「ねえ、。乾はなんでに渡したのかな。」

「ん? ああ、さっき、たまたま購買で会ったからだよ。隣りのクラスだって知ってるし。」

「そっか。ありがとう。」


僕はどうも、のこととなると気が気ではなくなってしまう。
が僕以外の男と話しているだけで、嫌な気持ちが込み上げてくるんだ。
嫉妬という名の。

僕の独占欲にも困ったもんだよね。


「あ、。もうお昼は食べた?」

「ううん。まだこれから。」

「じゃあ、一緒に食べよう。」

「え、」

「たまには、二人っきりもいいと思わない?」


ね、と駄目押しとばかりに笑顔を向けた。
しどろもどろなは、見る見る内に赤くなっていく。
それでも、うなづいてくれた。

本当には可愛いんだから。


その日は久し振りに二人でお昼を食べ、僕の機嫌も良くなった。
毎日でもいいけど、たまにだからこその楽しみもあるよね。





それから数日後のこと。

僕は部活へと向かうため、鞄を手に教室を出た。
廊下には掃除をする生徒が何人もいる。

その中に、を見つけた。
クラスメイトと共に、一生懸命掃除をしているようだ。

「何でも一生懸命やる」

僕は、のそんなところが好きなんだ。



今日は一緒に帰る約束もしていなかったから、声を掛けておこうと思い、に近付く。
すると、僕よりも先に、に声を掛ける存在があった。


つんつんヘアーだけど、二年生じゃない。
その、中学生にしては高い背から繰り出される高速サーブは、日々威力を増している。

乾だ。


授業が終わった後の学校は騒がしい。
その喧騒に紛れて、二人の声は聞こえなかった。

何となく気になって見守っていると、乾がをその場から連れ出すようだ。
止めようか迷い、結局ついていくことになった。




辿り着いたのは、廊下の端にある階段。

端というのは概して人気の少ない場所だ。
ついでにここは、青学の告白のメッカの一つに数えられている。
僕は、やはり、ついて来てよかったと思った。


けれど、二人に追いついた時。
乾の声が聞こえてきた。



さん、君が好きなんだ。」

「え…、」



乾の真剣な告白に、は驚いたようだった。


だけど、次に紡がれる言葉を僕は知っている。
おそらく、乾もデータにより分かっているだろう。

だけど、言わずにはいられなかった。



それが、恋。



乾の気持ちは分かる。
だけど、僕も恋をしているんだ。

黙って見過ごすなんて、出来ない。



。」

「周助!?」

「不二…」


にいつもの笑顔を向け、乾を見る。
乾は、僕がついて来ていたことに、気付いていたみたいだった。


覚悟を決めた上で行動し、先のことを悟った目だ。


そのことが、嬉しかった。
僕の仲間はいい奴だってことだから。



「乾。悪いけど、は渡せないんだ。」


はっきりとした声で伝えると、乾は口許に笑みを浮かべた。
全てに満足したかのように。


「分かっている。悪かったな、不二。」


そして、乾は僕の横を通り抜けて、来た道を戻っていく。
擦れ違う瞬間、小さく僕に囁いた。



「礼を言う。」と一言。



すると、その場を後にする背中に、の声が響いた。



「乾くん!」


振り返る乾と、を見る僕。
ここでもには、一生懸命な表情が覗いた。


「ごめんね。私、好きな人がいるから、だから、あの、嬉しかったけど、」

「仲良くやれよ。」


の、途切れ途切れの言葉を遮った、乾の言葉。


の一生懸命さが伝わり、乾の嘘のない気持ちが伝わった。
乾はそのまま去っていく。




この状況で僕は、いつもの笑みを湛えてしまっていた。
それをに指摘される。


「あ、周助。何で笑ってるわけ?」


そう言うの表情は、とても不審そうだ。


「ん、僕の彼女はもてるなぁって感心してたんだよ。」

「もう、何言ってんだか。」


笑いながら言うと、は呆れたように歩き出した。


その背は思いがけない告白を逃げずに受け止め、前ヘと進む。
自分に出来る、精一杯のことをして。


。」
「周助。」


僕たちの声が重なった。
お互いの顔を見合わせながら、一瞬時が止まる。


次の瞬間、二人を笑い声が包んだ。

Fin.
2004.9.14

背景素材:

―――――あとがき―――――
キリ番…666。リク者…櫻野梢さん。相手…不二さん。設定…不二さんの彼女。
内容…青学レギュラーの誰かから告白される。
初キリリク作品です。人様に差し上げられるような作品かは、全く自信がありません…。
そもそも、告白するのが何故乾なのか、と言いますと。すみません。あみだくじで決めました(おい)
ちゃんと候補にはリョマも英二も手塚まで入れてあったのに、引き当てたのは乾でした…。
乾を入れたのは、ちょっとした遊び心だったのに(こんなとこで遊ぶな)
もっと、不二さんと乾を戦わせようとも考えましたが、
基本的にレギュラー陣は信頼し合っていると信じているので、出来ませんでした。
櫻野さん。こんな作品ですが、どうぞ受け取って下さいませ。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

[イソトマネコ](旧「碧素異英士〜ブルー・キッド〜」):原谷 凛

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