祝おう 心の底から

祝おう ひとりにひとつずつの大切な日を

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2月28日。
明日は不二周助の誕生日だ。
4年に一度は。

去年あったその日は、今年は存在しない。
閏日2月29日。

だから、皆前日に当たる今日、プレゼントを渡し祝う。
3月に入ると出遅れた形になるからだ。


「不二くん、お誕生日おめでとう!」

「ありがとう。」

「不二先輩、お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう。」

「不二ー、誕生日おめでと!」

「ありがとう。」

「不二先輩、誕生日おめでとっす。」

「ありがとう。」


朝から何度となく、男女関係なく、上下関係なく、繰り返された会話。

普通の人では考えられない人数に声をかけられるのは、有名だからだ。
しかも、有名な上にその絶やさない笑みのおかげで、声をかけやすい印象を周囲に与えている。
声をかけられるのは仕方のないこと。

隣りを歩いていた菊丸は、少しも嫌な表情を見せない不二が不思議だった。


「なあ、不二ー。」

「何?」

「いい加減、面倒くさくなってこないの? こんなに声かけられて。」

「あー、まあ別にいちいち人を確認してるわけじゃないしね。適当に相槌打つだけでいいから楽だよ。」

「ふーん、そういうもんなんだ。」


そんな調子で教室にたどり着き、いつもと変わらない学校が始まった。
ただ一つ違うのは、休み時間毎に増えていく不二の荷物だろうか。



引退した今でも何かと仲の良い部活仲間からも祝いの言葉を贈られ、
不二はいつも通り彼らと帰った。





午後7時頃、不二宅に訪問者があった。
メールによってそのことを知っていた不二は、家人に伝える。


「母さん、僕ちょっと出てくるから。8時には帰ってくるつもり。」

「分かったわ。もう暗いから気を付けなさいね。」

「うん。行ってきます。」


不二はすっかり日が落ちて街灯が点っている道へと出る扉を開けた。
まだ、風は肌寒く少し首を竦める。

門のところに姿を見つけ、笑顔を作りながら呼び掛ける。


。」

「こんばんは。」


は挨拶の言葉を口にしながら笑いかけてきた。
不二も笑みで応える。

近くの公園へと、暗い道を2人は並んで歩いた。
ベンチに腰を下ろすと、は早速手にしていた包みを差し出した。


「はい。お誕生日おめでとう。」

「ありがとう。」


受け取り、包みを開けようとするとが慌てて阻止する。


「あ!駄目だめ! 家に帰ってから開けて。」

「え、どうして?」

「だって、恥ずかしいから…。」

「恥ずかしい物なの?」

「や、そうじゃなくて、カードが…。」

「ふぅん。」


包みを解くのを諦めたように手を止め、が息を吐き視線を逸らしたところで、再び解き始めた。
目敏く見つけたにまたもや止められそうになる。


「もうっ、周助!」


僕の手からカードを奪おうとするを躱しながら、文面に目を走らせる。
よく読み取れなかったけど、照れて顔を赤くしたが可愛くて笑みが零れた。


「わかったってば。今は読まないから。」


騒動も一段落して、他愛ない話を続けた。
冬の夜は静かだった。春も近いというのに。


「このまま、0時過ぎるまで一緒にいたいなぁ。」

「それは…まだ出来ないね、」

「うん、出来ないよね。まだ、」

「うん、まだ。私もそうしたいけど。」

「まあ、いいや。今は、こうしてと一緒に星空が眺められるだけで。」





その日の23時57分、不二の携帯が着信を告げる。
一人にしか設定していない曲が流れる。

反射ですぐに取ってしまったが、もう少し聞いていればよかったと少し残念になった。
が自分を呼んでいる声のようだったから。


自分を求め、自分を必要としている声。

(僕も重傷だな)

不二は、どれだけに依存してほしいと思っているかに気付き、自嘲した。
それは逆に、自分がどれだけを必要としているかを知ることにもなったのだった。


「もしもし。」

『あ、周助? 私だけど。』

「うん、どうかした?」

『お誕生日おめでとう。』

「…ありがとう。さっきも言ったよね。」


不二は笑いながら礼を言った。
その言葉に、穏やかな声音が返事をする。


『うん。だけど、やっぱりここに周助の生まれた瞬間がある気がしたから。
 2月28日と3月1日の間に。』

「…僕も、そう思うよ。」


僅かな瞬間に繋がっているライン(電話)
それを共有出来る悦び。


『周助。』

「ん?」

『ありがとう。』

「何が?」

『うん。全部が。』

「それじゃ分かんないよ。」


不思議なことを言い出すに、不二は笑いながらも少し困った。
そんな彼の心情が伝わったのか、はこう言った。


『いーの。周助は分かんなくて。居てくれるだけで。』

「僕は、いつものそばにいるよ。」

『そう。それだけ分かってればいいの。』


電話を切る直前、はまたその言葉を口にした。


『ありがとう。』


それは、僕の言葉だった。
の誕生日にこの言葉を告げれば、伝わるだろう。


『ありがとう。』   (僕も、同じ気持ちだよ)





ありがとう、生まれてきてくれて
ありがとう、ここにいてくれて


君を祝い、君に感謝する日


誕生日――ひとりにひとつずつの大切な日

Fin.
2005.2.28

背景素材:

―――――あとがき―――――
お誕生日おめでとうございます、不二さんvv
ということで、不二さん生誕記念夢でございました〜。
ああ、どうせなら去年書きたかった、とか思いましたが、29日はない方が多いですしね。
何とかお祝いできてホッとしております。
「ありがとう」はもう、私が不二さんに伝えたいです。
いや、不二さんに限らず、テニプリに関わる全ての方に感謝の意を伝えたいです。
あー、でもやっぱり、その中でも不二さんは特別ですかねー。
彼のおかげでどれ程頑張れたか、幸せな気持ちになれたか、心を揺さぶられたか。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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