キラキラキラ  光の反射

綺羅  美しく輝くもの

万華鏡

今日は、久し振りにが僕の家に来る。
爽やかな日差しの日曜日。



窓辺でサボテンの移動をしたり、体調を尋ねたりしていると、道を歩いてくるが見えた。
もう、家の前まで来ている。


出迎えるために階段を降りている途中、玄関のチャイムが鳴った。
インターホンには出ず、直接扉を開ける。

玄関を出てきた僕に、は微笑みを向けてくれる。
その表情を見て、僕も微笑んだ。

門を開けながら声を掛ける。


「早かったね、。」

「うん。思ったより歩くの早かったのかも。」


笑いながら言う



こういう小さな笑い、幸せな気持ちが少しずつ僕の心に刻まれていく。
を思う時、これらがキラキラするんだ。
僕の中でまぶしく。

光の反射のように、が僕にぶつかってくる。
水面に浮かぶ水の泡がパンッと弾けるように、輝く。



「どうぞ。」

「お邪魔します。」


扉を開け、を招き入れる。


「はー、いつ見ても綺麗でお洒落な家だよねぇ。」

「そうかなぁ。母さんがけっこうきっちりしてる人だからかな。」

「あ、今日家の人は?」

「うん。出掛けちゃったんだ。突然、由美子姉さんが母さんを買物に誘って。」

「そうなんだ。由美子さんにも会いたかったのに、残念だなぁ。」

「あれ? は僕に会えただけで満足じゃないの?」


僕は、少し悲しそうに言ってみた。
はどんな反応をするだろう、と想像しながら。


「や、うん。そうだけど、由美子さんにも会いたかったなぁって…」


慌てて言い募るに、僕は笑顔を向ける。
すると、は目敏く察知して僕にこう言った。


「周助…、からかうのやめて…。」


そんなの反応に、僕は笑ってしまう。
これも、僕たちがどれだけ仲良くなったかを示すだけのやり取りでしかないから。




に二階の自室へ行くように言って、僕は二人分の飲み物とちょっとしたお菓子を用意しに、キッチンへ向かった。
トレーにそれらを乗せ、二階への階段を上る。

両手が塞がっている僕が入れるように、は扉を開けておいてくれた。
声をかけながら、部屋へ足を踏み入れる。


「お待たせ。」

「あ、ありがとう。」


は、サボテンたちの様子を見ていたようだ。
テーブルの前に座りながら、こんなことを言った。


「相変わらず元気そうだね。周助の愛をいっぱい浴びてるからかな。」


最後の方は少し笑っている。
こまめに世話をする僕が、「日光」を浴びせていることを、「愛」を浴びせてると言っているらしい。

面白い発想をするなぁ、と思いながら、言葉を返す。


「ふふ。そうかも。だったら、はもっと元気になっててもおかしくないね。」

「え、何それ…、」

「こういうこと。」


言葉を遮り、隣にいるの頬に軽いキスをした。


「ほら。は僕の愛を浴びるだけじゃなくて、直接触れてるんだから。」


驚いた表情の後、僕を見ながらゆっくりと、キスをした頬に手を当てる
数秒後、僕の行為と言葉を実感したように、小さな声で言った。


「…そうかもね。」


笑顔で、ほんのり顔を赤らめている。
その表情は、部屋にわずかに差し込む日光で、キラキラしていた。





それから、のんびりと他愛ない会話を続けた。
すると、があるものを見つけた。

それは、僕が小さい頃から家にあったものだ。
お揃いのものが二つ、今は、一つは僕の部屋、もう一つは祐太の部屋にある。

昔からある玩具、万華鏡。


「あ、万華鏡だ。見てもいい?」

「うん、いいよ。」


万華鏡を手にして、は戻ってきた。
手の上でくるくると回し、装飾(デザイン)を鑑賞している。


「昔ながらの、これぞ万華鏡って感じだね。」

「うん。僕が小さい頃、おばあちゃんにもらったものだから。」

「そうなんだ。じゃあ、すごく大切にしてるんだね。まだこんなに綺麗だし。」

「祐太とお揃いだから、余計かな。もらった時すごく嬉しかったんだ。」

「だったら、大切にするの当たり前だね。周助、祐太くんのこと大好きだもん。」


笑いながらそう言われてしまえば、僕も笑うしかなくて。
笑いながら、頷いていた。


「あー、いいなぁ、この万華鏡。私、和紙って好きなんだ。」


は、万華鏡の筒の部分を見つめながら言う。

僕の万華鏡は、筒が和紙に包まれていた。
和紙独特のマーブル模様。
僕も、幼いながらにその模様を気に入っていて、今もその好みは変わっていない。


「わぁー、綺麗…。」


万華鏡を覗いて、はその美しさに感動しているみたいだ。
ゆっくり、ゆっくり、時計回りに回している。


「はい。周助も見たら?」

「うん。」


から万華鏡を受け取り、その小さな覗き窓に目を近付ける。


久し振りに見る万華鏡の世界は、昔と何も変わっていなかった。
変わらず、僕を美しい世界へ引き込んでくれる。

決して同じ模様ではないけれど、同じ万華鏡だ、あの頃と。




「周助。」

「ん?」


万華鏡から目を外しの方を向くと、カメラを構えたがいた。
その姿を確認したと同時に、シャッターを押される。


カシャッ


に写真の趣味はないから、使い捨てカメラ。
カメラを顔から離したは、得意そうな笑みを浮かべている。


「ふふ。周助と万華鏡なんて、滅多に撮れないよね。」

「うん。そうだろうけど。面白くも何ともないと思うよ。」

「もう、分かってないな。
 どんなに普通の面白くない写真だって、撮りたくて撮った写真は素敵なんだよ。
 周助だって言ってるじゃない。」


そうだった。
写真は出来上がりにはもちろん価値があるけど、撮るということ自体にも意味がある。


残しておきたいと思った一瞬を、残そうとした痕跡。


一瞬の積み重ねが人生であるから、その一瞬に手を加えることは大きな意味を持つことだった。
いつも撮影者に回る僕は、珍しく被写体になったことで忘れていたみたいだ。


「そうだったね。じゃあ、は僕との、この一瞬を大切にしたいんだ?」

「当たり前でしょ。」


少し憮然としながらも、明るい声で答えてくれる。




こんな一瞬の積み重ねが人生。
一瞬を幾つも散りばめて、くるくると回せば、万華鏡のよう。

光の反射でキラキラ輝く。


は僕の万華鏡。
幼い頃から大切にしていたものよりも、大切な。




綺羅、星の如く。

Fin.
2004.9.24

背景素材:工房 雪月華

―――――あとがき―――――
いつの間にか連動企画、「万華鏡をテーマに書こう」第二弾でした。
連動企画についての説明は、第一弾「カレイドスコープ」のあとがきにて。
一応、最初と最後を同じにして、繋がりを持たせてあります。
さて、第二弾でこの企画は終了(え) そもそも企画ではないですからね(苦笑)
こちらの万華鏡話は如何でしたでしょうか?
第一弾とは趣向を変えて、昔ながらの万華鏡にいたしました。
写真についての考えも入れてしまいましたが、今回はあくまで万華鏡本位で。
白状しますと、先に書き始めたのはこちらです。でも、なかなか進まず…。
「どちらが先」というこだわりはなかったので、順番入れ替えとなりました(笑)
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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