彼は王子  彼女は普通の人

彼女が王子に与えたもの

王子の予感

朝の8時10分。
はいつも一番乗りで教室に着く。
そんなとき、彼女はこんなことを考える。

(今日は王子に挨拶できるかな)



続々とクラスメイトが教室に入ってくる中、王子が来た。


「おはよー、」

「ああ、おはよう。」


は何でもないように声をかけたが、心の中ではこう叫んでいた。

(きゃ〜。王子、今日もかっこいいよ〜。)

彼女は心の中のみならず、友人にも言う。


「おはよう。今日も王子かっこよかった!」


これが登校してきたに対する第一声。
しかし、は慣れているらしく「よかったねー、」と軽く流している。


「それにしても、手塚が王子だなんて…」

「何言ってんの! 王子だよ!」


そう。彼、手塚国光はちまたで王子と呼ばれている。
青春学園の生徒会長、強豪と言われるテニス部の部長を務め、品行方正、成績優秀、容姿端麗。
王子と呼んでも何等差し支えはない。
だが、親しみやすさが足りないかもしれなかった。


「でも、王子って万人に親しみやすくないといけないんじゃないの?」

「そうだけど…、でも頼り甲斐はあるでしょ。」

「まあねー。ほんと、って手塚が好きだよね。」

「うん!」


この時ははっきりと言えた。
ファン心理として。



は、手塚と三年になって初めて同じクラスになった。
二年の頃から名前と顔は何となく知っていた。
ずっと、近くで見てみたいと思っていたが、試合を見に行くことはしていなかった。
は今になって思う。


自分はこの時既に、手塚に恋をしていたんじゃないかと。






新しいクラスになってから三週間が経った頃。
の心は揺れていた。
ファン心理と恋心の間で。


同じクラスになった頃は、ためらわずに自分の気持ちを言えた。
恐れるものはなかったから。
手塚にどう思われるかは気にならなかった。

今、その頃は感じなかった気持ちがある。

それは、不安。

ちょっとしたことで、手塚に嫌われているんじゃないか、と思ってしまう。
そんな素振りを見せたことも、嫌われる程話したこともないのに。
それからというもの、自分の気持ちが分からなくなってしまった。




そんなある日。


。」

「え、何?」


は初めて、手塚から声をかけられた。


「生徒会からのアンケートがまだ出ていないんだが、」

「あ、ごめん。あの日、急いでたから。……はい。」

「そうか、…確かに。」

「あ、手塚くん。」

「何だ?」

「うん。それ、今から集計するの?」

「いや、放課後にやってしまおうと思っている。」

「じゃ、さ、手伝ってもいい?」


突然の申し出に手塚はしばし考え、結論を出した。


「では、お願いしよう。」

「うん。じゃあ、放課後。」


この会話を聞いていたが言う。


ってば、本当に手塚が好きなんだねぇ。」

「…うん!」


は自分の気持ちに答えを出していた。
自然と出た言葉が、心を表しているというのなら。






放課後。
夕陽が差し込む静かな教室。

と手塚は机を向かい合わせて、集計作業をてきぱきと進めていた。
そんな中、が唐突に口を開く。


「ねぇ、手塚くんって、何でそんなにかっこいいの?」


一瞬手を止めた手塚は、何事もなかったように作業を再開し、に尋ねる。


「かっこいいと思うか?」

「うん。」

「どこがいいのか、俺には分からない。」

「かっこいいよ!
 いつも落ち着いてるし、質問してもちゃんと答えを返してくれるし、頼り甲斐があるの。
 廊下歩いてるだけでかっこいいし。姿勢はすっとしてて、前を見据えてる感じ。
 あ、それに、テニスしてる時! 本当にかっこいいんだから! 
 いつもより鋭い瞳で、コートに立つだけで周りの雰囲気変えちゃうし。
 あの瞳に射抜かれたら、どきどきして身動き取れないんじゃないかって思う程…、」


は、自分が何を言っていたかに気付いたようで、顔を赤くし口を手で覆っている。
そのまま、俯いてしまった。

手塚はそんなを、ただ黙って見つめていた。
自分のことを熱心に、楽しそうに話すを。



手塚は驚いたのだった。自分のことをこんなにも熱心に話す者がいることに。
こんなにも自分のことを見てくれている者がいることに。

そして、心に温かい感情があることに気付く。

今までに感じたことのない想い。

それはとても微かなもので、心を澄ましてやっと感じられるくらいのもの。
だが、それでも温かく優しいものであることは分かった。



手塚の口許がわずかに綻ぶ。

その瞬間は、誰の目にも留まらなかった。
本人さえ気付かず、一瞬の内に通り過ぎ去ってしまう。


。」

「っはい。」


名前を呼ばれたは驚きながら、赤いままの顔を上げる。
手塚の表情は、が俯く前と少しも変わっていないように見えた。
今はもう作業を再開していて、今度は手塚の顔が俯き加減だ。



「…ありがとう、」



小さく、何気なく紡がれた一言。

思いもかけなかった手塚の言葉に、は嬉しさが込み上げてくる。
その気持ちは、自然との表情を柔らかくさせ、微笑みを浮かべさせた。

が微笑んだのを気配だけで察知した手塚は、自分の表情が少しだけ柔らかくなるのを感じた。
小さいけれど、確実に自分へと影響を与える


彼女といれば、何かが見えてくるのではないか。
彼女といれば、何かが変わるのではないか。


そんな想いが湧いてくるのを感じる。

いつかは自分のポーカーフェイスが崩れる日も、来るかもしれない。




夕陽が差し込む静かな教室。
そこは、さっきよりも少しだけ柔らかく、少しだけ穏やかな空気に包まれていた。


希望という名の予感に。

Fin.
2004.5.5
2004.11.9(再)

背景素材:

―――――あとがき―――――
本来ならば、手塚第一弾となるはずだった作品です。別名:PC故障事件被害作品。
放課後の教室での話の流れが思うようにいかなくて…。
あんなにすらすら書けていたのにー!(ハンカチを噛む)
とにもかくにも、復元できて良かったです。残るは、あと2作品。書けるのか…?
これを書き始めたきっかけは、自分の体験だったりします(笑)
同じクラスに「王子」と呼ばれる男子がいまして。部活の先輩に付けられたあだ名らしいですが。
私にとっては、本当に王子です(笑)
ヒロイン同様、今年初めて同じクラスになって近くで見たのですが、「王子」のあだ名に納得しましたからね。そして芽生えた淡い恋心v というのは冗談ですが。
でも、本当になんであんなにかっこいいんやろ? と思ってしまいます。
定番の、というか正式のリョマ王子とも迷いましたが、手塚の方が雰囲気が合っていたので。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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