心に灯った 小さな煌き

Petite lumiere

クリスマス・イブの夜。
街は色とりどりのイルミネーションに彩られ、冷たいはずの冬の空気が心なしか暖かく感じられた。
ケーキに立てる蝋燭を買ってくるよう頼まれた不二は、どこか浮き足立った人々の波に沿って歩いていた。
不二としては姉お手製のケーキだけでも十分だったが、その姉が蝋燭を所望しているのだから買い出しに行くしかない。


この通りの先にある広場には、大きなクリスマスツリーが飾られている。
10日程前からツリーの電飾は点灯していたが、イブの今夜は特別なライトアップがされるため、点灯式が予定されていた。
その点灯式が目的と思われる人も多い。

そんな人の波の中に、不二は見知った顔を見つけた。
ファストフード店から出て来たばかりの少女は、箱の入った袋を提げている。
中身は恐らくチキンだ。
少女は店先で立ち止まったまま、腕時計を確認している。
その様子を見ている内に、その少女に辿り着いてしまう。


さん、こんばんは。」

「っ!?不二くん…こんばんは。」


突然かけられた声に驚きつつも、腕時計から視線を外して声の主を確認したは、不二に挨拶を返した。
不二は思いがけない出会いに心が弾むのを感じながら、に話しかける。


さんはチキンの買い出し?」
「うん。うちは家で焼かないから。」
「ここのって美味しいよね。」
「でしょ!チキンと言えば、やっぱりここかなって。家族の満場一致で決まったよ。」


少し笑いながら話すに、不二も笑顔を返す。
クラスメイトではあったが、特別親しいわけではないため、こうして言葉を交わすことは少なかった。


「不二くんはどうしたの?」
「ああ、僕は蝋燭を買いに。」
「ケーキに立てる蝋燭?」
「そう。別になくても良かったんだけど、ケーキを作ってくれた姉さんに頼まれたら断れなくてさ。」
「お姉さんお手製なんだ。いいなぁ。手作りのケーキってお店のとは違う美味しさがあるよね。」
「僕もそう思うよ。愛情がこもってるんだろうな。」
「きっと、そうだよね。じゃあ、お姉さんに感謝の気持ちも込めて蝋燭を買って帰らなきゃ。」


そう言って笑顔を向けるに、イルミネーションの灯りが降り注いでいた。
それを見た不二は、「そうだね。」と答えた後、ふと思い出したことを口にする。


「今日、そこのツリーで点灯式があるの知ってる?」
「うん、知ってるよ。確か、もうすぐのはず…」


はそう言いながら、腕時計で時間を確認する。
先程、腕時計を見ていたのはそのためだと推測した不二は、思わずに問いかけていた。


「もしかして、誰かと約束でもあった?」


口に出してしまってから、尋ねたことを少し後悔したが、後の祭り。
の答えがどんなものであれ、受け止めなくてはならない。
この状況になって初めて、不二は自分の心にに対する淡い想いが存在していることに気付いた。



粉雪のように、吹けば舞うようなまだ頼りない想い。


それでも、この想いが育っていくことを願っている自分が確かにいた。
不二の耳に、の声が届く。


「ううん。誰とも約束してないよ。ただ、ついでにちょっと見て帰ろうかなぁ、とは思ってたけど。」


それまでと変わらないトーンで返された言葉。
しかし、それは不二の心に小さな波を起こした。
胸の鼓動が少し大きくなるのを感じながら、不二は言葉を紡ぐ。



「じゃあ、さ。一緒に見ようか。」


不二の言葉に、は笑顔で頷いた。
人の波の中を二人並んでツリーへと向かって歩く。


不二が隣りをそっと見ると、自分より少し背の低いの頭に、色とりどりなイルミネーションの灯りがきらきらと映っていた。
は見られていることに気付いていない様子で、イルミネーションに目を奪われている。
その瞳も同じようにきらきらしていた。
自然と不二の口元に笑みが零れる。
ゆっくりと空を見上げ、思いがけないプレゼントをくれたサンタクロースに心の中で感謝した。



「煌きと、大切な人になるかもしれない人をありがとう。」

Fin.
2011.12.24

背景素材:7 Style

─────あとがき─────
メリークリスマス!不二さんのクリスマス夢、如何でしたでしょうか。
クリスマス夢を書こうと思ったとき、どうしても不二さんで書きたくなったのですが、
不二さんと過ごすクリスマスが思い付かない!
そして、あまりしないことなのですが、好きな曲からヒントを得ることに。
JUDY AND MARYの『クリスマス』です(←まんま)
ですが、これまた上手く行かず、結局あまり曲には沿っていません(え)
いくら好きな曲と歌詞でも、それは自分とは別の人が描いたストーリーですものね。
とりあえず、思い描いたラストシーンは大体書けたので、良しとします。
タイトルの『Petite lumiere』は、フランス語で「小さな光」という意味です。
実は、ゆかりん(田村ゆかり)の曲名から頂戴いたしました。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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