君との初めてのデート 碧い海の中

あなたとの初めてのデート 青い空の下

陽の光に照らされて -ルリスズメダイ-

さんをと呼べるようになったあの日から最初の日曜日。
今は朝の9時。
僕は駅前の時計台の下にいる。
との初デートの待ち合わせ場所なんだ。

頭の上には青空が広がり、行き交う人々に陽の光が降り注いでいる。
気温も少し暖かく、絶好のデート日和だ。

そんなことを考えながら立っていると、駆け寄ってくる少女が見えた。

僕と目が合うと照れたような笑顔になって小さく手を振る。
僕も負けずに笑顔で手を振り返した。


「おはよ。不二くん。」

、おはよう。」


今日初めて交わす言葉。

こんな小さな一つ一つの言葉が喜びの素になる。
これはきっと君も同じだね。
僕とはお互いの顔を見て同じように笑っていたから。


「じゃあ、行こうか。」
「うん。」


そうして、電車へと乗り込んだ。

日曜の朝ではあったけど、ゆったりと座れるくらいの人だった。
僕たちは端に並んで座った。

を一番端に座らせたのはちょっとした対策なんだ。
たとえ短時間だとしても僕の目の前で僕以外の男がの隣りに座るのは嫌だからね。
そんな独占欲が強い自分に少し笑ってしまった。


「何か楽しいことあった?」

そう君に尋ねられて

「うん。水族館は久しぶりだからね。楽しみなんだ。」

本当のことだけどちょっとごまかしちゃったかな。


「うん。私も楽しみ!」
の笑顔が見られたからいっか。

それで、何で水族館に行くことになったかというと。

大石が勧めたからなんだ。


今度の日曜日にとデートするって言うと、

「それなら水族館がいいよ!」と、それはもうすごい推し様で。
試しにに言ってみると

「いいね!水族館。映画と違ってずっと話せるし。ゆっくりできるしね。」
と乗り気だったから、近くの水族館に決定したってわけ。


2人で学校の話とか他愛無い話をしている。

車窓から見える景色は見慣れているはずなのに違う色を以って見えるよ。
少し、空に近い層の同じ場所のような。
それは隣りにがいるからだね。

そう思ってを見ると楽しそうな顔をしている。
その顔が可愛らしくて更に笑顔になる。

気付けばもう降りる駅の直前だった。

幸せな時間は過ぎるのが早いね。

電車がだんだん速度を落としていく。
目的の駅に降り立つと急に人が増えた。


「わぁ。人がいっぱいだね。」

「うん。街の中心地だしね。」

「水族館も多いのかなぁ、」

「う〜ん。目新しいものじゃないし、頻繁に行く所でもないから大丈夫だと思うよ。」
「そうだよね。小学校の遠足は平日だし。」


そうして話しながら歩いて行くと、水族館が見えてきた。
思った通り、あまり混雑していないみたいだ。

今は10時ちょっと過ぎ。
回りきったらお昼ってくらいかな。


「じゃあ入ろうか。」
「うん。」


入場券を係員にチェックしてもらって中に入る。
入ったそばから水族館独特のゆったりとした空気に包まれた。


「わぁ。水族館だねぇ、」

「ふふ。そのままだよ、それ。」

「はは。そうだけど、何か実感しちゃって。外と全然違うし。」

「うん、そうだね。いい雰囲気って言うのかな。」

「そう!そんな感じ。あ、あのお魚、色が綺麗、」

「ん?どの魚?」

「あそこの海草の近くにいる魚、あ!こっちに来た!」

「ほんとだ。綺麗な色だね。青い空の色とも違うし、碧い海の色とも違う、」

「うん。綺麗なブルーだよね。んっと、『ルリスズメダイ』だって。」


こんな風に話しながら水族館を巡った。

時折、水槽を見つめるの顔があのオレンジの陽に照らされた時と同じように見えて、
思わず見つめた。


、君はオレンジの陽がなくても僕に希望をくれるんだね。
そう、いつでもどこでも。
そばにいてくれるだけでいい、って本当に思うことがあることを今、知ったよ。
あの日と同じようにまた、を守っていくと誓った。
すると、

「不二くん?どうしたの?」

「ううん。何でもない。」

「あ、また何か考え事してたでしょ!」

「ふふ。そんなところ。」

「で、また『今は教えない。』って言うんでしょ。」

「すごいね。当たりだよ。」


こんな風に言うと、ぷーー、との頬が膨れた。

面白くて可愛かったからつい、その頬をつついた。
すると、は一瞬きょとんとした顔をして笑い出した。


「え、?」

「ごめん、だって、不二くんがこんなことすなんて思わなかったから。おかしくて、」

と言いながらまだ笑っている。

そんなに面白かったのかな。

試しに膨らまし返してみたら、そんな僕を見て更に笑い出してしまった。


「あははっ。不二くんが、頬をぷくーって、、っくく、可愛いよー!」

ここまで笑ってもらえて、僕もとうとう笑い出した。


2人で向き合いながら笑っていると、そこは水族館にぽっと咲いた黄色いお花畑のように感じた。

海の中の明るい陽だまり。


時間をかけて回り、水族館を出ると1時近くになっていた。


「水族館よかったねー。」

「うん。また来たいね。」

「うん!あ、もう1時近いね。お昼食べに行こっか。」


そうしてファーストフード店に入り、少し遅い昼食を取った。


「この後どうしようか。」

「う〜ん。あ、不二くん今日カメラ持って来たんでしょ?」

「うん。」

「じゃあ、植物園にでも行こうよ。」

「そうだね。水族館じゃまんまり撮れなかったし。」




植物園に着くと、時刻は午後3時でまだ陽は高い。
生命の息吹に萌えるあらゆる花や木々を眺めて歩く。

桃色の花を咲かせている夾竹桃、黄色の大輪を誇る向日葵、涼しげな紫色の菖蒲、
それらを取り囲む濃い緑の葉達。

緑の葉や色鮮やか花たちは僕に次々とシャッターを切らせる。
そして、陽に照らされている君も。


。こっち向いて。」

「不二くんも一緒に撮ろうよ。さっきから私しか写ってないもん。」

「うん。僕は撮る方専門だから。」
(でも、と一緒に写った写真も欲しいな)

僕がそう思うのと同時には親子連れに声を掛けていた。


「すいません。カメラのシャッター押してくれませんか?」


親子連れは快く引き受けてくれたみたいだった。


「ほら、不二くん!こっちこっち。」

が手招いたのは橙とも濃い桃色とも見える花が咲く凌霄花(のうぜんかずら)の前。
僕は少し笑いながら近づいた。


「じゃ、いい? ほら、ポーズとって、」

は右手でピースをして真直ぐカメラの方を向いている。
そんなと僕との間には少し隙間があった。
僕はそれがちょっと気に入らなかったから、不意にの右肩を右手で抱き寄せた。

は驚いた顔で僕を見るから、笑顔を返した。
すると、照れた様に笑ってカメラに向き直り、先程と同じポーズをとった。

肩は僕に抱かれたまま。


「じゃあ、お願いします。」

「はい。いいですか?はい、ポーズ!」



その後も僕は撮る方専門でいた。

そうして、閉園時間ちょうどに入り口に戻ってきた。


「はぁ〜、楽しかったね。」

「うん。写真もたくさん撮れたし。」

「不二くんは事ある毎に撮ってたもんね。」

「ふふ。まあね。」


門をくぐりながら空を見上げる。

既にオレンジの陽が目に鮮やかで、柔らかい風が僕たちの周りを吹き抜けた。



寄り道はせずにを自宅まで送り届け、

「また明日。」

と別れの言葉を交わした。




一人の帰り道。

今日見た、色んなが脳裏に浮かんでくる。

その中でも最後の笑顔は忘れられない。
全く、別れ際にあんな顔をされたら帰したくなくなるというのに。


(やっぱり、オレンジの陽に照らされているが最強なのかもしれないな)


僕はの笑顔を胸に暗くなり始めた帰路を歩いた。

Fin.
2004.1.16

背景素材:

――――あとがき――――
書かずにはいられなかった話なので、書き上げられてホッとしています(笑)
ちなみにこの作品は全て携帯で執筆いたしました。
なので、一文が短い気もいたしましたが、携帯は便利でございます。
何の事件もない普通の初デート。
きっと、日常の中ではこのような時間の方が多いのではないでしょうか。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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