夏 ある作戦を立てましょう

君 一緒にしてくれるかな

打ち水大作戦

「あ〜、暑いーー!」

夏休みのある日。
は、一人家の中で悲鳴をあげていた。

そんな時、点いていたテレビから聞こえてきたあるニュース。


「…これだ。」 (ニヤリ)


とうとう暑さでおかしくなったのか、怪しげな笑みを浮かべる
これから、何が起こるのか。
知るのは、ただ一人。



携帯電話でメールを素早く打ち、送信する。
相手は英二。内容は一言。


「今から、出来るだけ早く青学に集合! 持ち物:バケツ、ジョーロなど。
 出来るだけ人を集めてね。」


全くもって意味の分からないメールだが、彼氏である英二には何かしら伝わったのであろう。
すぐに返事が返ってくる。


「オッケー! ちょうど今、部活の練習終わったとこだから、みんな引き止めとく。、早く来いよー。」


出遅れたのは自分の方になってしまった、と少々悔しくなるだが、気を取り直して青学へ向かう。
家を出ると、夏の暑い日差しがを照らし、気温を上昇させていっている。


「今に見てろよー。」


青い空を見上げ、笑みを浮かべながら宣戦布告をした。
まるで勝利を確信したかのような物言いに、空は一体何と思ったのだろう。





その頃、青学テニスコート付近では、英二が指揮を取っていた。


「じゃあ、急いで家からバケツかジョーロを持ってくること!」

「英二、そんなもの持ってきてどうするんだ?」

「ん〜、俺もよく分かんないけどさ。の言うことだから、きっと面白いことだよ!」

「まあ、が英二に言うってことは、面白いことに間違いはないと思うけど。」

「そうだろー。だから、大石も持ってくるんだよ、バケツとジョーロ。」

「わかった、わかった。」




そして、英二が「面白いこと」と判断した、全く何をするか分からない提案に賛同する人々が集まった。
各々自宅から持参してきたバケツやジョーロを手にしている。

参加者全員が揃ったところで、謎の企画の提案者、が皆の中央に立つ。
そして、その企画の全貌を明らかにした。


「みんな、集まってくれてありがとう。早速だけど、これから、打ち水をします!」


ざわざわと動揺を見せる参加者の面々。
どんな内容にせよ、どよめきが起こるのは必至だったが、よりによって「打ち水」
中には、「打ち水って何?」という声も聞こえてくる。


「えーっと、簡単に説明します。やり方は簡単。みんなでただひたすら地面に水を撒き続けるだけ。
 目的は、気温を下げること。まあ、詳しい仕組みは手塚に聞いて下さい。」


手塚は、突然話をふられたにもかかわらず、眉一つ動かさなかった。
さすがは手塚だ。

テレビを見ていたのはで、手塚は直接その内容を知らなかったが、理解はしていた。
「打ち水」を知っていれば、だいたいの仕組みは分かる。


「終了時刻は適当。各自に任せます。楽しんで涼しくなるのが目的だからねー!
 題して、『打ち水大作戦』! 始めーー!!」


「おー!!」という声と共に、曰く『打ち水大作戦』が開始された。




レギュラー陣はほとんど参加しており、多くの部員も参加していた。
その光景を見た他の部の生徒たちも参加したりして、数はいつの間にか増えていた。

始めはちゃんと地面に向かって水を撒いていた者も、人にかけてみたくなるのは、人の性で。
結局、『打ち水大作戦』は、名目付きの水浴びと化していた。
青学内には、生徒たちの楽しげな声が響き渡り、地面はどんどん水に濡れていった。


「それっ!」

バシャッ

「うわー、冷てー!」

「あはは、英二に命中〜」

「この、っ! 覚悟しろよー」

「やだよー」


も当初の目的を忘れたかのように、水浴びに興じていた。


そして、英二の反撃から逃れるべく選んだのは、手塚の後ろ。
サッと隠れると、その場面を視界に捉えた英二が水を掛ける。


バシャッ


「………」
「「あ……」」


周囲にいた者たちも、その光景を目にして思わず固まってしまう。
辺りに漂う静かな、重苦しい空気。
手塚の声が響く。


「菊丸…。グラウンド5周!」

「ぅわ、はい!」


素早くグラウンドへと向かう英二。
部活外でも変わらない手塚だったが、その周数が常より少ないところに、
楽しんでいるだろう部分が見えた。




グラウンドへと向かったは、英二が5周走り終わるのを待つ。


「ふ〜。終わったー。」

「お疲れ様、英二。」


はタオルを差し出し、持参してきた飲み物を渡す。


「サンキュー。5周なんて楽勝だよ。いつもより少ないもん。」

「あー。そういえば、いっつも何十周とかだもんね。」

「そうそう。やっぱ、手塚も楽しんでんだよ、『打ち水大作戦』」


笑いながら言う英二に、も笑顔を返す。


「英二。ありがとね。」

「ん? 何が?」

「話に乗ってくれたこと。英二がいなきゃ、こんなに楽しくならなかったよ、きっと。」

「なんだ、そんなことか。」

「そんなことって。あんなメールだけでオッケーするなんてびっくりしたんだから。」

「当たり前じゃん。が俺に何か提案する時って、大抵面白いことだし。彼氏だしねー。」


最後の一言は、の顔を覗き込むように言った。
いつもの、英二らしい人懐っこい笑顔で。

そんな英二にも笑顔になり、言葉を返す。


「うん。それも、「自慢の」彼氏だしね。」


「自慢の」を強調して言い、英二の腕に抱きつく。
下から見上げてくる可愛らしい笑顔に、英二は軽い目眩を感じた。


(ああ、もう、俺はどこまでを好きになればいいんだろう…)


英二がそんなことを考えているとも知らず、は『打ち水大作戦』の現場へ戻っていく。
10メートルほど進んだところで振り返り、英二を呼ぶ。


「英二ー! 早くー!」

「今行くー!」




『打ち水大作戦』は成功を収めた。
温度計で計っていたわけではないが、参加者たちの楽しげな顔。
それだけで十分だろう。

Fin.
2004.8.21

背景素材:卵の庭

―――――あとがき―――――
今朝考えて、約3時間半で書き上げました。
夏の話が書きたくて、ネタを探していましたら、TVから『打ち水大作戦』のニュースが。
はい。これは、半分実話でございます(笑) 本当に始めだけですがね。
中学時代、夏の(学校の)風物詩といえば、水浴びです。
運動系のクラブの子は、特にしていましたねー。クラブ後に。
私は文化系だったので、ほとんどしていませんが。
楽しそうだったのを覚えています。あ、一度だけ後輩としたことがあったなぁ(笑)
そして、初英二でございます。
いやー、書きやすい(笑) 言葉遣いが微妙なところもあるかもしれませんが。
英二は、脇キャラでよく登場していましたしね。
この前書いた新作(アップは未定)にも出ています。この出たがりめ(俺のせいじゃないって! By英二)
では、最後まで読んで下さり、ありがとございました。

[イソトマネコ](旧「碧素異英士〜ブルー・キッド〜」):原谷 凛

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