祝おう 心の底から

祝おう ひとりにひとつずつの大切な日を

静かな贅沢

「てーづか。」


放課後の夕日が差し込んでくる生徒会室に、の声が響いた。
は扉を開け、中を伺いながら声を掛ける。


「入っていい?」

「ああ。」


室内にいるのは、手塚一人。
手元には、ノートと筆記具が広がっていた。

こちらを向いた手塚の顔は、逆光で表情までは分からない。だが、険しい顔はしていなさそうだ。
手塚の了承の声を聞き、静かに扉を閉めて近付いていく。

は荷物を椅子の上に置き、手塚の隣に座った。
その時、手塚は既に作業を再開していた。


「何か、手伝おうか?」


数十秒見ていたは、手伝いを申し出た。


「いや、もうすぐ終わる。」

「そっか。」



そして、静かな沈黙が流れ、時間が過ぎていく。


も手塚も、静かなひとときを心地好く感じていた。

作業を続け、ひたすら手を動かしている手塚の横にはが。
机に頬杖をつき、正面を何の気無しに見ているの横には手塚が。


隣りに君がいる。


そのことを二人とも幸せに感じていた。





数分後、パタン、と手塚がノートを閉じた。
素早く反応する

頬杖をついていた手を外し、手塚を見て言う。


「終わった?」

「ああ、終了だ。」

「じゃあ、ちょっと待ってね。」


言うなり、自分の鞄の中をごそごそと探り出した
流石の手塚も、少し不思議そうにしている。


鞄から出したの手に握られていたのは、包装紙に包まれた箱。
高さは5センチ程度、縦は10センチ弱で、横は15センチくらいの直方体だ。
リボンがかけてあり、メッセージカードのようなものが挟んである。


「はい。お誕生日おめでとう。」


両手で大切そうに手塚へ差し出す


「ありがとう。」


あの手塚が、心なしか嬉しそうな表情を見せた。

受け取り、一通り箱を眺めるとメッセージカードに手を伸ばす。
リボンから外し、カードを彩っている文字を読む。



『HAPPY BIRTHDAY♪  TO. KUNIMITSU
 P.S  これからも、楽しい日々を過ごしていこうね。』



らしいメッセージに、口許が緩む手塚。

その瞬間を偶然、視界に入れたも口許を緩ませ、嬉しそうに照れ笑いをした。
そんなに気付き、また少し口許を緩める手塚。


その瞳は愛しい存在を見守っていた。
優しく、温かく、強く、見守っている。


いつも以上に柔らかな表情と出会ったは、少し照れてしまう。
俯き加減で、頬を赤らめていた。


「…。」


呼ばれて、そうっと顔を手塚の方へ向けると、の顔に手が伸びてきた。


壊れ物のように、やんわりとの右頬を包む手塚の左手。


その手が気持ちよく、ゆっくり顔を上に向けた。
改めて正面から手塚の表情を見たは、それまでの恥ずかしさがなくなっていくのを感じた。
そして、軽く目を閉じる。

ごく、自然な動作で手塚のキスが降りてくる。



静かな空間での静かなキス。



これほどの贅沢があるだろうか、と手塚は一人思う。
ゆっくり、名残惜しそうに唇が離れた。



「素敵なプレゼントだな。」



離した瞬間、小さく呟いた手塚の声。

まだ息のかかる至近距離で呟かれると、余計に照れてしまう。


結局、恥ずかしさを呼び起こされたは赤くなった。
それを気付かれるのは、何故だか悔しかった。
は気付かれないために、手塚に抱き付く。

そして、お返しに呟いた。



「好きだよ、国光…。」

「…俺もだ。」


は滅多に名前で呼ばない。
「国光」と呼び掛ける時、いつも以上の気持ちが秘められていることは、手塚にも伝わっている。



この時のの心は、手塚への祝福と感謝で満たされていた。
彼が、手塚が、ここにいてくれることに幸せを感じていた。

手塚もまた、自分の誕生を心から祝ってくれる人がいることに幸せを感じた。



静かな夕暮れの中、2人はお互いの体温を感じ、幸せをかみ締めていた。
時は、ゆっくりと流れてゆく。





ありがとう、生まれてきてくれて
ありがとう、ここにいてくれて


君を祝い、君に感謝する日


誕生日――ひとりにひとつずつの大切な日

Fin.
2004.10.7

背景素材:

―――――あとがき―――――
手塚生誕夢でございました。そして、初手塚。復活夢は完成していないので、初となります。
途中、微妙にバカップル入っていますね(笑)
手塚のお誕生日は、やはり静かにゆっくりと祝いたかったのですよ。
この誕生日ラッシュ作品の中では、一番良い出来になるかもしれません。
手塚はそこまで好きではなかったはずなのに(え) 書きやすい…。
おそらく、感覚が合うのでしょうか。実は、英二や桃はちょっとついていけないです(苦笑)
中心で騒ぐタイプではないので、そういう人がどのように動くか、などよく分からないのだと思います。
あ、作中で書くつもりだったのに、すっかり忘れていましたが(おい)
手塚へのプレゼントはメガネケースです。何気に自分の欲しいものだったり(そうかよ)
では、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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