離れて分かった この気持ち

会って分かった 気持ちの大きさ

陽の光に照らされて ―girl's side 1―

放課後の教室。

クラスメイトは皆、部活や帰宅など各々の途に就いていた。

私、 は一人、日直の仕事である日誌を書いている。
誰もいない教室で過ごす時間は好きだから、ついのんびりしてしまう。

何気なく辺りを見回してみると、所々にゴミがあるのに気が付いた。


「んーーー、」


どうしようか少しばかり考えて、いつもと同じ結論を出した。


ガタッ ガタッ  ――バンッ


扉の開閉に力が必要になってきた掃除用具入れから、ホウキとチリトリを取り出す。



―――――――――「…よし。」



日直になるといつも、してしまうこと。
教室の掃除。
特に黒板掃除は、きれいになっていくのがよく分かるから、楽しいんだ。
教室自体の掃除は当番がちゃんとするから、黒板掃除をすることの方が多い。


そうこうしている内に柔らかいオレンジの陽が窓から射し込み始めた。


「はぁ〜、綺麗……」


思わず瞳を細めてうっとりとしてしまう。

そして、あと一息で書き終わる日誌の続きに取り掛かった。

静かな教室に私のシャーペンの音だけが響く。



さん。君も残ってたんだね。」

「わっ、不二くん。びっくりしたぁ。」


突然声を掛けられたことに驚いたんだけど、それだけじゃない。
その人物が思いがけない人だったから。その驚きの方が大きかった。

にこやかな微笑みを浮かべて扉口に立っていたのは、不二周助。
1年生の時同じクラスだった元クラスメイトで、実は私の好きな人。


「あはは。ごめんね。さんはどうして残ってるの?」

「うん、今日、日直だから日誌書いてたの。不二くんは?」

「僕も一緒。」


そう言って、不二くんは手にしていた日誌を示した。


「偶然だね。」

嬉しくて笑顔でそう応えていた。
不二くんは、いつもと同じ微笑みで私と向かい合う形で椅子に座った。





不二くんの微笑みは1年生の頃から変わらない。

私は、彼の微笑みが好き。
どんなときでも心を和ませてくれて、疲れを癒してくれる。
本人にそんな自覚はないだろうけど、自然に感じてしまうのは仕方ないよね。
私にとっては紛れもない事実だから。


たとえ、その笑みが他人を入り込ませないための壁だったとしても。



不二くんの微笑みはずっと変わらないけど、違う顔もする。

いつだったか、偶然不二くんがテニスの試合をしている所を見かけた。
その時の不二くんは真剣そのもの。
「こんなに変わるんだ、」と妙に感心してしまったのを覚えている。

鋭い眼差しを相手に向けながらも、あくまで闘争心は秘めようとしていた。
それが、気持ちの強さを何よりも表していたけれど。

そうやってテニスに向き合っている不二くんは、かっこよかった。
普段のあの微笑みからは想像することのない眼差し。
あの碧い瞳に見つめられたら、きっと誰も身動きが取れなくなるだろう。


「あぁ、不二くんは男の人なんだ、」と思った瞬間だった。



以来、事ある毎に不二くんを意識してしまう。

その前から「優しい人だな。」と好意は持っていた。
よく気が付くし人当たりもいいから、一人で重い荷物を運ぼうとすると、
さり気なく手を貸してくれる事もあった。

そんな時、私の胸はいつの間にか早鐘を打つようになっていた。
だけど、私は男子が少し苦手だったせいで、男子と話す時は緊張することが多々あった。
そのため、不二くんに対しての反応はそれと同じだと思っていた。


不二くんへの想いに気付いたのは2年生になってクラスが離れてから。
クラスが違うと自然と会うことも少なくなって、全く見かけない日もあるようになった。

初めは、何か物足りない、という曖昧なものだったけれど、寂しいと思うようになって。
一目会うと嬉しくなって幸せを感じる自分に気付いた時から、私は不二くんが好きなのだと自覚した。
だから、今のこの偶然の状況は嬉しさを隠せない程のこと。





胸の早鐘を気付かれないように幸せを噛みしめていると、ふと不二くんが声を発した。


「あれ。でも、日誌を書くだけじゃ こんなに時間かからないよね。」

「そうだけど…、不二くんもさっき書き終えた所なんでしょ?」

「僕はしばらく のんびり夕陽を眺めてたから。」

という不二くんの答えが、あまりに彼らしかったから思わず笑いながら

「不二くんらしい。」と言っていた。

不二くんも「そうかなぁ。」と笑った。


不二くんの周りは時間がゆるやかに過ぎていると思う。



「分かった。」

「え、何が?」

さんが今まで残ってた理由。教室の掃除までしてたんだよね。」


言い当てられたことに驚いたけど、嘘を吐く必要もないから認めた。


「う、うん。当番がしたんだけど、隅とか机の下にゴミがあったから。
 でも、どうして分かったの?」

「だって、僕の教室より床がキレイだもん。」


不二くんは辺りを見回しながら言った。


「それ、理由になってないよ。」と私は笑った。


すると、不二くんは何かを知っているような笑みを浮かべて、思いついたように言った。


「そうだ。たまにはテニス部の練習見に来てよ。
 今、みんな気合入ってていい感じだから、見てるのもおもしろいと思うよ。」

「そうなんだー。私たち三年にとっては最後の夏だしね。
 あ、じゃあ今から部活なんじゃない?早く行った方がいいよ。」

「うん。あ、一緒に日誌提出しに行こうか。書き終わったよね。」

「うん。行こっか。」


不二くんの誘いがとても嬉しかった。

不二くんと並んで歩く廊下に広がるオレンジの陽がとても色鮮やかに感じる。


日誌も提出し終わり、
「部活楽しんでね。」と言って、部活へ向かう不二くんを見送った。
せっかく誘ってもらったけど、用事があったから。

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