オレンジの陽     希望の笑顔

大切なものは  目立たないのかもしれない

陽の光に照らされて -1-

約一ヶ月に一度回ってくる日直。

放課後、教室で日誌を書いていると いつの間にか僕一人になっていた。
一人きりの教室は穏やかな気持ちになる。
つい、その気持ち良さに浸っていたみたいで
窓からやわらかいオレンジの陽が射し込み始めた。


「あ、カメラは部室に残してきたんだ。」


普段、出逢うことのない教室からの夕陽を撮ろうと思ったんだけどな。

そうして日誌も書き終わり、職員室に提出しに行くことにした。


静かな廊下を歩く。
教室の窓から射し込んだオレンジが 僕の足元にまで届いていた。
走ってカメラを取ってこようかな、と思わせる程 僕の心をくすぐる。

ある教室の前を通ると少女が一人、机に向かっていた。


さん。君も残ってたんだね。」

「わっ、不二くん。びっくりしたぁ。」


と言って笑っているこの少女は 
二年生の時 同じクラスだった元クラスメートで、実は僕の好きな子なんだ。


「あはは。ごめんね。さんはどうして残ってるの?」

「うん。今日、日直だから日誌書いてたの。不二くんは?」

「僕も一緒。」


そう言って、持っていた日誌を見せると
「偶然だね。」
と、また笑う君。

その笑顔に出逢う度、僕の心に君が刻みつけられていくのを 君は知らないんだろうね。


彼女は噂になる程 美人なわけじゃない。
クラスでも目立たない方だった。

けれど僕は知っているんだよ、君の素敵なところ。
一年間見ていたんだから。

そんなことを思っていると、あることに気付いた。


「あれ。でも、日誌を書くだけじゃ こんなに時間かからないよね。」

「そうだけど…。不二くんもさっき書き終えたところなんでしょ?」

「僕はしばらく のんびり夕陽を眺めてたから。」


と、答えるとさんは笑いながら
「不二くんらしい。」
と言った。

僕も「そうかなぁ。」と笑った。

君の中にいる僕を知る度に嬉しくなるよ。


「分かった。」
「え。何が?」

さんが今まで残ってた理由。教室の掃除までしてたんだよね。」

「う、うん。当番がしたんだけど、隅とか机の下にゴミがあったから。でも、どうして分かったの?」

「だって、僕の教室より床がきれいだもん。」

「それ、理由になってないよ。」


と君は笑うけれど、僕は知っているんだよ。

自分が日直になった日は必ず、黒板まで丁寧に掃除していること。
当番の掃除で、黒板は消すだけでいいからね。
縦と横に順番に黒板消しをあてていく、なんてことはしない。
なのに、約一ヶ月に一度 必ず黒板がそうなっている日があったんだ。

僕がこのことに気付いたのは君と同じクラスになって三ヶ月程経ったある日。




その日も黒板はいつも以上にきれいで、気持ちがよかった。
一ヶ月に一度こんな日があることは分かっていたけど、誰がしてくれているのかは まだ分かっていなかった。
朝のS.H.Rが始まる前、君が友達とこんな会話をしているのが聞こえたんだ。


、スカートのプリーツのとこ汚れてるよ。これ、チョークかな。」

「え。あ、ほんとだ。ありがと。」

「どういたしまして。でも、何でチョークなんかついたんだろう。」

「昨日、黒板掃除したからかな。」

「黒板掃除したんだ!さすが。」

「はは。そうかなぁ。まあ、黒板掃除好きだしね。」



この会話で分かったんだ。
黒板がきれいな理由と君の素敵なとことが。

人知れず、皆が気持ちよく過ごせるように気遣ってくれる。
こんな心遣いが出来る人は 人を支える力を持っていると思うんだ。


「そうだ。たまにはテニス部の練習見に来てよ。
 今、みんな気合入ってていい感じだから、見てるのもおもしろいと思うよ。」

「そうなんだー。私たち三年にとっては最後の夏だしね。
 あ、じゃあ今から部活なんじゃない?早く行った方がいいよ。」

「うん。あ、一緒に日誌提出しに行こうか。書き終わったよね。」

「うん。行こっか。」


僕とさんは日誌を提出して、僕は部活へ向かった。
さんは用事があるらしくて帰っちゃったんだけどね。

別れ際、
「部活楽しんでね。」
と言ってくれたのが嬉しかった。

部活中に見た夕陽がいつもより色鮮やかに感じたのは、この一言のおかげかな。

Next

夢小説[青学]頁へ戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送